新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴って、
東京オリンピックは1年間延期された。
延期したものの次々に姿を変える変異株の猛威によって
有観客での実施をほぼ諦め、
中継映像による配信により競技状況を伝達するのが中心となった。
感染拡大が続く中で、
オリンピックそのものの開催可否について賛否が入り乱れる中、
数年間をかけた競技実施のための準備は
度重なる方針転換にもかかわらず、
粛々と(おそらく実際には現場の阿鼻叫喚のうちに)進められた。
毎年猛暑に見舞われる東京の地を危惧して
競歩とマラソンの競技は、北海道札幌市で行われることになった。
2019年の秋、ドーハで開催された世界陸上競技選手権大会における
棄権者続出の事態を受けての突然の変更であると言われた。
ところが、この夏の北海道は各種猛暑記録を次々に更新する事態となっていて
開催地の札幌市においても観測史上最長の真夏日連続記録を打ち立てる
こととなってしまったという。
例年より5℃以上高いような気温が連日続き、
しかも通常なら20℃を下回るような最低気温が、
この年は毎日熱帯夜に迫ろうかという高さになっていて
エアコン普及率のあまり高くない北海道民にとって
相当に厳しい夏を迎えている由である。
北海道は、「暑さは盆まで」と言われるようで、
たいてい8月中旬を過ぎると急に涼しくなるらしい。
実際に週間予報を見ると(毎日状況は変化しているが)
10日あたりから急激に気温が下がって
最高気温が20℃に届かないくらいになるというのだから
何とも間が悪いというか、運がないというか。
北海道及び札幌市によって「感染自粛」の呼びかけがあったものの
実際の中継映像を見ると競技中の沿道には少なからぬ観客が並んでいて
感染自粛要請にどのくらい効果のあったものか
疑問を抱かせるものでもあった。
もっとも、200万人弱の人口を有する札幌市において、
520万人以上いる北海道民がいる中で、
連休を利用して全国各地から訪れんとする日本人、
2週間の待機期間をものともせずやってくる外国人などがいる中で
あの程度で済んでいるのだから
「効果は絶大だった」という評価が行われても、
それはそれで間違いとは言えないかもしれない。
札幌市は北海道の道庁所在地であり、
各種全国企業の北海道支店、北海道事務所が多数所在していて
ビジネス上の要所の一つとなっている。
札幌駅から大通に至る地区にオフィスを構える企業も多く、
企業活動をしている以上、人流をとどめることはできない。
にもかかわらず、市中心部の目抜き通りや、
郊外の主要幹線道路を封鎖して競技を行うのであるから
市民生活、企業活動上は結構な制約を受けることになる。
競技が実施される何日も前から、
沿道における準備は進められていた。
可能な部分には次々とフェンスやコーンが配置され、
それによって、確かに競技が行われるらしいことが
感じられるようになっていた。
IOCも、auショップの看板までは取れとは言わないのだろう。
車で走っていると、至るところに迂回要請の看板が掲げられている。
「う回」という表現、何とかならんか?
「迂回」ではダメなんか?
単に「左折できません」でもいいんじゃない?
コース表示の緑色の破線が路面に描かれていた。
撮れなかったが「これは道路交通法上の表示ではありません」的な
注意書き看板も、ところどころに置いてあった。
交差点など、当日のみ閉鎖する箇所の脇には
フェンスがまとめて置いてある。
通勤・通学の人流は結構あって、
でもそれは都市の中心部なのだから、仕方がない。
本来の予定であれば、
日本全国から、世界各国からの観戦者・観光客で
数日間埋め尽くされていたに違いないのだから
それに比べればものすごく少ない人出であると言えよう。
JR高架に記された TOKYO2020 United by Emotion が
なんともうら哀しい感じがするのはワタクシだけだろうか。
交通量の多い道路だけれども、
コース表示の緑破線がずっと続いている。
これだけの流れを全面封鎖して行うのだから、
結構な影響がある。
とは言え、毎年北海道マラソン、札幌マラソンなどを
実施してきた経緯があるので、
ある意味慣れた面もあることだろう。
ちょうど、競歩の競技が進んでいる最中だったようだ。
うまく映らないけれど、上空をヘリが飛んでいる。
上方からの中継映像は、あそこから送られてくるのだ。
マラソンになると、飛行範囲も広いことだろう。
会場ほど近くの駐車場は、
競技関係車両用に確保されていた。
選手・コーチなどの宿泊場所と競技会場とを輸送する
バスのたぐい。
せっかくの札幌の街を、
バス車内からしか見られない関係者は
少々可哀想ではある。
「なんで見に行ってんの?」
「自粛要請無視?」
「こんな写真なんか撮ってさあ」
いえ、別に競技を見に行ったんじゃないんです。
こちとら、仕事はあるんですよ。
しがない設備屋なんだもん。
日々、経済活動を続けなくっちゃ食っていけないんっすよね。
その信号待ちの間に写真を撮ったからって
責められる筋合いじゃあないよね?
そろそろさ、「炎上」なんていうバカバカしい現象を
撲滅したいものだね。
ちょこっと聞き齧っただけでわかった気になって
その無根拠に等しい「知識」を元に
ひたすら他人を罵り、貶し、攻撃し、悦に入る
そんな現象を。
なんて。
仕方ないかな。人間の性だもんね。
さて、開催賛否入り乱れたオリンピックも
そろそろ打ち上げだ。
続いて、パラリンピックが開催されるが、
感染拡大状況とも合わせて、こちらもどうなることか。
いずれにしても、
全く先を見通せない中で準備してきた現場の方々は
ほんとうに大変だったことと思う。
何の責任もなく、担当もなく、後始末の心配もなく
ただ一時の感情にまかせて「やめろ〜!」とか「絶対開催〜!」とか
無責任に叫んだりネットで喚いたりしているだけの人物には
想像もできないことだろう。
全世界の人々が感じたように、
コロナ以降、あらゆる価値観が大きく変わった。
決して元のようには決して戻らない。
そう感じさせる、オリンピックなのであった。
(「つはものどもがはしらんとす」おわり)