ファンとダクトが乱舞する機械室。
いや、別に、踊ってるわけじゃないけれども
機械室内に所狭しと並んでいて
各自が各系統の送風排風をすべく
忠実に稼働している、そんな場所。
太っといダクトが入り乱れ
あるものは立ち上がり、あるものは横引きされ
文字通り縦横無尽にダクティングされているのである。
機械室壁は防火区画になっているから
壁際には防火ダンパーが設けられている。
もちろん、壁貫通部分は耐火じゃなくちゃならないから
貫通部のダクトは厚い鉄板(1.6mm)で施工されている、
はずだ。
ダクトだって、このくらい太いものになると
それなりに重たい。
あるものは天井から吊られ、
あるものは床からの鋼材により支持され
とにかくその形状を重力に逆らって保っている。
流通する空気の状態に応じて、
あるいは外壁からの遠近によって
保温されていたりされていなかったり、
それぞれの必要に応じた施工がされている。
系統によってはダクトの材質が異なっていたり
ファンが天吊になっていたり
ファン接続部では角丸変形したうえで
たわみ継手が設けられていて
ダクトの要所要所にもファン本体にも
振れ止めが設けられている。
合間合間にレースウェイに取り付けられた照明器具があって
機械室内といえども適度な照度が確保されている。
ダクトには風量測定口も設けてあって
実際に通過している空気量を測定して
ダンパー開度を調節したり検証したりできるように
なっている。
太いダクトを吊るための鋼材と
ダクト部材どうしを接続するための共板フランジとがあって
位置関係もさまざまである。
室内ダクトの位置や高さと
貫通先のダクトの位置や高さとを合わせるために
微妙に振り回していたりする。
躯体の形状に応じて、
ファンの位置や、メンテナンス動線を考慮したうえで
ダクトは振り回される。
上部に吊られるものだけではなくて
床上を這うダクトだって存在する。
いろんな系統が集中する部分になると
ファンの納まりだって厳しい。
それぞれに電源を送るための配線も
当然のことながら付随する。
微妙な位置調整が伴うと
X−Y方向のみならず
微妙な斜め方向の変形も生じる。
嗚呼!
こんな既存のダクトたちを
どのように把握すれば良いの?
「完成図」なるものはあるのだけれども
こんなこまごました諸々は表現されていないのだよ。
しかも、2次元で表現しているから
縦の重なりをわざとずらして描いたりするしかないのだよ。
斯くして、
「既存図」「撤去図」「改修図」はそれなりに描いて
あとは現場で合わせてね、っていう図面にしか
ならないのである。
「いや、それは困るから、
ガッツリ調査して、完璧な既存図を起こして
その上で撤去・改修を検討してね」
発注者の言わんとすることは、わかるんだけどね、
そう簡単な話じゃないんだよねぇ。
何日も通って測って図に落として
そんな調査が認められるなら、
そんだけの設計委託費が出ているなら、
不可能とは言わないけどね。
いや、実際、いくら時間と手間を掛けたとしても
なかなか「完璧に」表現することなんて、できない。
「設備改修工事設計図のテキトーさは
何も、手抜きってわけじゃあ、ないのさ」
画描き屋は、そううそぶくしかない。
「現場に苦労を丸投げしやがって。とんでもない奴らだ」
施工を担当する方々は、
怒りと諦念をもって改めて現場に立ち向かうしかない。
カメラを持って、機械室内をくまなく歩き回って
陰になる部分も、自撮り棒的なものの先に取り付けたカメラで探って
そんでもって、すべてのデータをAIで解析して
すべての設備要素の3次元的な位置と、
形状とか材質とか系統とか保温材の有無や種類とか
フランジ位置、支持金物にいたるまで
もちろん盤やら電線管やら収納ケーブルやら
ありとあらゆるものの3次元データが構成される。
何なら、1箇所に据えた機械から
いろんな波長の電磁波や音波その他によって
一瞬でスキャンできたら
なお簡単だ。
そんな機械が、解析アプリケーションが、
安価に出回るようになるのは、一体いつになることか。
製図板と鉛筆とT定規で
ちまちまと手描き図を描いていた時代に比べると
遥かにマシになっている現代だけれども
もっともっと、便利になって欲しいなぁって
切に思うのである。
委託者にとっても、
設計受託者にとっても、
施工者にとっても、
こんな3Dデータが容易に作成されるようになれば
圧倒的に楽になるはずなのだから。
「じゃ、人間は要らなくなるね!」
そこまで到達することは、可能なんだろうか。
3Dデータを生成する過程をAIにどう学習させるのか。
出来上がったデータが妥当であることを、
人間の目で見て判断する必要もあるんじゃないか。
属人性の高い、
それでいて「データ」として蓄積されていない、
古い設備から現代の設備に至るまでの知識の数々を
どうやってAIに学習させるのかという問題も残る。
改修計画だって、施工計画だって、
「集合知」化するには
なかなかハードルが高そうな気がする。
何にしても、
早いとこ「かんたん既存設備3Dスキャンシステム」が
出来上がらないかなぁと待望する
今日このごろ。
(「3Dスキャンを待望」おわり)