昭和のはじめに造られた建物であるから、
その後さまざまな改修が加えられながらも
当時の面影を多く残している。
「せつび」について、ご紹介していく。
まずは、暖房である。
当時の表記としては、『煖房』であるが。
銀行営業室のカウンターの下部分に
鋳鉄製細柱型の放熱器が収められている。
銀行員が居る側には露出で見える。
顧客側には網が取り付けてあって、
直接触って火傷することがないように配慮されているようだ。
たかだか「網」であっても、
現代のような無粋なものではなくて、
その枠に精緻な装飾が施してある。
金庫室前の壁際などは
ほんとうにそのままの放熱器。
火傷注意の標識は、もちろん後付け。
また、放熱器転倒防止用の壁固定金具も
後付けである。
建設当時は、こういう概念やモノが無かったはずだ。
接続配管は、おそらく何度か更新している。
応接室のような室の窓下にも
鋳鉄製放熱器が据えられている。
営業室のものよりも丸っこいフォルム。
窓下に合わせるため、背が低いものが使われている。
蒸気暖房の場合、蒸気配管が露出になっているのも
よく見られること。
コンセントや電線管の類は、
全部後付け。
放熱器に接続する蒸気(と還水)の枝管は、
隣の室のものと合わせてから床を貫通している。
蒸気管には勾配が必要。
写真で、若干の勾配がわかるだろうか。
窓の寸法形状に合わせて放熱器が配置されている。
窓自体は、当時の意匠を保ちつつ、
断熱、網入りガラスにしたり、
現代の用に耐えるよう改修されている。
放熱器トラップ。
各放熱器下部に1個、取り付けられている。
放熱器の表面には、製造社名が見て取れた。
何度か塗装し直されてきたものであろうが
文字は読める。
AMERICAN RADIATOR CO,
M.I.W
建築概要書に書いてあった、
「米國アメリカンラヂヱーター會社製アイデアル、スモークレス汽罐」
ってやつかな。
放熱器トラップは、新しそうだ。
そんなに長持ちするとは思えないからね。
圧力単位が、kPa 表示である。
立管から、上部横引き管へ。
蒸気管の人が触れそうな部分には
保温材を巻いてある。
「保温」というよりも、
火傷防止の「断熱」という感じ。
還水管も結構熱いはずなんだけれどね。
ファンコンベクターがついていた室もあった。
当時はこんなモノ無いから、
後付け、もしくは鋳鉄製放熱器からの置き換え。
エアコンなんかがついている室もあるけれど
ずいぶん古い型に見える。
もちろん、後付け品だけれども。
ダクトで温風も送られているようで、
下がり天井と吹出口が見える。
ところどころの内壁には、
パスダクト。
今どきは、こんな低い位置にはあまり見られない。
地下部分には、
湿気対策であろう諸設備が
たくさん付加されていた。
エア搬送ファンも、ベントキャップも、
当時のものではない。
照明も、当時のものとは思われない。
コーナー部の壁に鏡があるのだが、
その下部は制気口にもなっているようだった。
金庫室の周囲にぐるりと回廊があって
四隅の鏡で奥を確認できるようになっている。
地下で、湧水や結露水もあったからだろうか、
側溝がぐるりと取り付けられている。
1階営業室上部には、
エアコンが取り付けられている部分もあった。
多くの観光客が訪れる施設としては
やはり必要なものであろう。
あっちこっちの電線管・ボックス類は
壁に合わせて真っ白に塗られている。
火災報知器は、何度か取り替えられて
今に至るようだ。
照明のスイッチも
今のようなリモコンやタンブラースイッチではなくて
押し釦式。
スイッチを1時間かけて手磨き……。
「電話室」なんてものもあって。
今は、ただの見世物であるけれど。
ヒューズ式ブレーカー(の残骸?)と
新し目の火報押し釦の対比が面白かった。
なぜか古いものが撤去されずに
残されていたり。
建物本体の造りや、
銀行のさまざまな室や
プロジェクションマッピングも大層楽しかったのだけれど
やっぱり「せつび」を眺めるのが一番楽しいかな。
いろんな歴史が刻まれていて、
いろんな想像をすることができて。
(「旧三井銀行小樽支店のせつび」おわり)