ここの機械室の主役は、コイツであった。
蒸気ボイラ。
専属でボイラー技士を置かなければならない代物なので、
人件費節約の観点からも
近年は蒸気ボイラは好まれない。
低圧ボイラであるから、
ビル全体が吹っ飛ぶような爆発はしづらい。
蒸気ボイラの主蒸気管は
ちょっと独特の接続をする。
まずもって、新築の設計施工実務では見かけなくなった。
安全弁の排気管を、そのまま開放しているところもあるし、
屋外まで配管でつなげている所もある。
熱い蒸気を各所に送って暖房すると、
蒸気は冷めて湯になる。
これを「還水(かんすい)」と言い、
回収して加熱してまた蒸気として送る。
冒頭の写真の右側にある四角い水槽が
還水を溜めておく「還水槽」である。
2基のボイラから取り出した蒸気は、
このような「蒸気ヘッダ」で合流させてから
各系統に分ける。
このボイラ室から、2つの建物に蒸気を供給するため、
ここで主管を2系統に分けている。
役割としては「一次ヘッダ」である。
一次ヘッダから取り出した主管を、
更に1つの建物内の各系統に分岐する。
その蒸気ヘッダが、これ。
この写真では、4系統に分岐している。
「二次ヘッダ」であると言える。
ヘッダ下部には、
蒸気トラップが設けられている。
蒸気(気体)は冷えると湯(液体)になるので、
気液分離は蒸気システムの要なのだ。
蒸気主管の末端には管末トラップを設けるし、
配管があまり長くなるようだと中間トラップも必要だ。
蒸気管から液体がスムーズに排出されるように、
適切に勾配を設ける必要もある。
その辺のところがうまくいかないと、
スチームハンマーが生じて厄介だ。
いろいろと、気苦労の多いシステムでもある。
昔は蒸気用のバルブと言えば、玉形弁(ストップバルブ)
……と言われていたような気もするが、
定かではない。
現に、この施設ではバタフライ弁が使用されているし、
バルブメーカーのカタログでも「蒸気」用途として
仕切弁、ボール弁とともに記載されている。
現代は、
兎にも角にも、コスト。
そして、コストの最たるものは、人件費。
と言った観点から、
ボイラーマンを置かなくてはならない蒸気システムは
敬遠される。
どうしても「蒸気」を使わなければならない施設以外では
温水や代替フロン冷媒などの熱媒を使用する。
実務で使わないと、
「蒸気システム」は忘れられていく。
もう、久しく設計から遠ざかっている。
建築設備としての文献も、少なくなる一方だ。
茶本にも載らない。
施工したことのある職人さんも、
減る一方であろう。
蒸気システムは、
建築設備から離れて、
「プラント」としての在り方に留まるようになるんだろう。
大病院(ここだって、いわゆる蒸気ボイラから貫流ボイラに取って替わっている)や
工場や、自衛隊くらいにしか、
残らなくなるんだろう。
これも、時代の流れである。
(「蒸気ボイラ、あまり見なくなった」おわり)