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そう訊かれて「強い!」と答えられる人は、多分あまりいないでしょうね。
日本人は一般的に謙虚で奥ゆかしい民族ですから……かどうかはともかく、相当自信がないと強いと言い切ったりしないのではないでしょうか。
だからかどうだか知りませんが、「数字を出されると弱い」裏を返せば「数字に惑わされ易い」という現象が時々見られるようです。
設備の計算に関して、少し触れてみます。
◇事例1〜換気風量の算定◇
送風機の能力を表示する場合、少なくとも風量・機外静圧・電動機容量の三種類は記載します。
ある部屋の換気用に全熱交換ユニットを設置するとしましょう。
【風量】には、
・室容積の何回換気という算定の仕方
・在室人数を元に、一人当たり必要換気量を掛けて出すやり方(基準法の考え方)
・粉塵濃度を一定以下に保つための算定の仕方(ビル管法の考え方)
・シックハウス症候群緩和のための常時換気(これも基準法ですね)
などなど、いろいろな出し方があります。
用途に応じて、またそれぞれの「最低限の基準」をクリアするように、決定します。
さてここで、例を挙げてみます。
研修室の室面積が64.80m2、天井高さが2.7mだったとします。すると室容積は、
64.80×2.7=174.96m3 ですね。
研修室に三人掛けの長机とイスを置くと、一人当たりの専有面積はおよそ2m2ほど。となると在室人数は、64.8÷2=32.4人 ということになります。一人当たりの換気風量を30m3/hくらい取りたいとすると、どうやって出しましょうか。
32.4人×30m3/(h・人)=972m3/h とすればいいのか、「0.4人」なんて人数は変だから四捨五入して
32人 ×30m3/(h・人)=960m3/h とすべきなのでしょうか。
さて、どちらがいいと思いますか?
どっちでも、いいんです。大した違いではないので。何なら、四捨五入ではなくて切り上げにして、
33人×30m3/(h・人)=990m3/h としても構いませんし。
つまり、この換気風量の計算においては、960、972、990 という数字の違いはあまり意味がないということになります。
これが、基準法上求められている20m3/(h・人)の場合だと、それを下回るわけにはいきませんが、目安である30m/(h・人)の場合には少々下回ったとて大した問題ではありません。
お金の計算だと1円でも間違ったら大問題なのですが、技術計算の上では「ぴったり合う」という概念自体がおかしいと言えます。
換気風量において、1m3/hというのはわずかな量です。たてよこ高さそれぞれ1mの容積の空気が、1時間かけて動く。1分間あたり約17リットル。1秒間あたり約280cc。普通の換気扇などではこんな細かい風量制御はできません。
そういうわけで、機器能力を表示する際には風量は十の位で"丸めて"しまいます。
上の例では、960、970、980、990、どの数値を採用しても間違いではないですし、どれかが最も正しい、なんてこともありません。
ちなみに、この風量で換気回数を出してみると、
960m3/h÷174.96m3≒5.49回/h、
990m3/h÷174.96m3≒5.66回/h です。
あとは設計者が
「機器の経年劣化やホコリの堆積によってだんだん風量が落ちてくるから、多めの990m3/hを採用しよう」
「換気風量が大きいと外気負荷が増えるから、少なめの960m3/hを採用しよう」
「中くらいの970m3/hにしよう」
とか決めれば良いだけです。
これに対して、
「計算上972と出ているのに能力を960とするとは、計算の偽装だ」
「理論上960で足りるのに990と記載するとは、高い機器を売りつけて儲けようと企んでいるのだな」
などと非難するとしたら、ちょっとピントがずれています。
(「設備の、計算。(1)」おわり)