熱的環境「だけ」を考えれば、こんなガラス面など無い方が良いに決まっています。
現代は、熱性能に優れた各種ガラス材がありますが、それでも『躯体壁+断熱材』という一般的な壁の熱性能に比べたら、断熱性能は数分の一。無いに等しいと言っても差し支えないでしょう。
だから、「今のガラスは高性能だから、省エネだよ」というのは間違い。
じゃあなんでわざわざ熱性能面では劣悪と言えるガラスを使うのかと言えば、意匠的要請であったり、視覚的効果であったり、熱的環境以外のものを求めているからです。
熱的には不利であっても、効果的なデザインを追求した結果、建築物トータルとしてはより優れたものになるだろう。そういう、総合的判断に基いて採用されるということになりましょうか。
ガラスに限ったことではなく、構造的な不利や高コストを甘受してでも表現したい形状があれば、敢えてそれを採用することもあり得るでしょう。
その建物を使用する人間が不便を感じたとしても、それでも実現したいデザイン、というものもあり得るでしょう。
同様に、熱的性能の不利を承知の上で、それでもなお表現したいこともあるでしょう。
クルマ好きが高じて、生活費を削ってでもクルマ関係に費用を投じるような。
住居よりも食事よりも、美しく装うことを優先したいがため、服飾費に収入の大部分をかけるような。
その辺のところをしっかりと認識した上で、ガラスを捉えているならば、それはそれで一つのあり方なのではないでしょうか。
「今のガラスは高性能だから、省エネだよ」
などと勘違いしているままでは、『総合的な判断』を正しく行うことはできません。
「高性能ガラスを採用して、省エネに寄与しています」などと言うと、嘘をついていることになってしまいます。
「ガラスを多用しており省エネ政策には逆行していますが、高性能ガラスを採用することよって熱損失を緩和しています」くらいが関の山でしょうか。
正しく(「正しい」とは何か、という根源的な問いもあるのですが)理解した上で妥当な判断を下したいものです。
いろいろな要素について、良い面、良くない面、それぞれを正しく認識して、建物全体としての最善を目指していく……それが、統括設計者の役割なのだと思っています。
さて、冒頭の写真。
タッパの高いガラス面ですから、冬期の熱損失は大きくなります。
それに対する策は……。
上部。
線状吹出口(ブリーズライン、などと呼びます)から空調空気を吹き出してガラス面に当て、内部空間に対する外皮の影響を減ずるようにしてあります。
外皮以外の部分に空調空気を送気するために、高天井であるゆえ到達距離の大きいノズル形吹出口がついているのも見えますね。
下部。
放熱器を設置して、ガラス面に沿って暖かい空気の上昇気流を作り、外皮による熱撹乱を緩和しています。
ブリーズラインや放熱器によって供給される熱は、ガラス面を通じてどんどん外部に放出されていきます。燃料から作り出した熱を無駄に発散して大気を暖め、地球を暖めていきます。
どんなに高効率の熱源を使っても、搬送動力や搬送抵抗の低減に工夫をこらしても、省エネルギーなんかにはなり得ません。ひたすら、無駄に捨てる熱を供給し続けるだけです。
『それでも、実現したい意匠的表現がある』
そういう覚悟を持って採用されるべきなのが、ガラスなのです。
「良くわかんないけど、ガラスのほうがカッコイイし。
負荷とか省エネとか、難しいことは設備に任せるから何とかしてね」
そういうのは、「総合的判断」と呼びたくないのです。
(「高天井・ガラス外皮の負荷処理」おわり)