個人のブログとして勝手に記載したものであり、「フィクション」と解釈いただいて構いません。従いまして、本項の記述につき筆者は何らの責を負いません。その前提にご了解いただける方のみご覧下さい。)
設計図をもとに、工事費を算定することを、「積算」(せきさん)と言います。
公共工事の場合、設計図を元に積算して出した金額を、「予定工事費」として、工事入札にかけます。
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入札で、一番古典的なものが、「指名競争入札」でした。
A社〜E社を事前に指名します。
「あなたがたに、この工事の指名を行います。指定の日時に集まって下さい。」
で、指定日時に入札を行います。
各社が応札金額を書いた紙を入札箱に入れます。
予定工事費を超過したら、失格。
予定工事費以下の金額のうち、もっとも低い工事費を提示した業者が落札してその工事を請負うことができます。
仕事を取りたいと思えば、安い金額を提示すれば良いわけです。
けれども、あまり安く取って、大赤字では意味がありません。
本音で言えば、なるべく高く受注して、儲けを大きくしたいものです。
それで、なるべく高く工事を受注するための工夫が行われたわけです。
入札参加メンバーは事前にわかりますから、各社の営業担当者が事前に集まります。
入札に指名される頻度は大体決まっていましたから、
「今回はD社で受注するようにしましょう。」
と、あらかじめ決めます。年間を通じて、各社がそれなりに受注できればよいわけですから。何も一社で独り占めする必要はないのです。
でも、予定金額がわからなければ、各社の応札金額も決められません。
一応、それぞれ積算はしますが、積算という作業には不確定要素が大きいため、予定金額を正確に予測することは不可能です。
それで、役所から聞き出すわけです。
積算というものは、非常に不確定要素の大きなものです。
ですから、「正確な積算」というものは存在しません。
ただ、官公庁の場合、「ある一定のやり方・手順で」積算することにより、ある程度の結果が出せるように基準を決めています。それでも、「誤差」の範囲は広く、ピタッとした結果が出せるような基準ではありません。
予定金額をちょっとでも超えると失格ですから、業者側としては何とかして知りたいわけです。
役所OBを営業担当役員に迎え入れて、かつての部下から聞き出す。
業界団体の役員(これもOBが多い)が、役所に挨拶に行って聞き出す。
選挙で応援した首長から口利きしてもらう。
まあ、いろいろとあったわけです。
ある入札で、予定工事費1,000万円のところ、応札額が
A社→1,000万円
B社→ 990万円
C社→ 995万円
D社→ 980万円
E社→ 985万円
などとなって、非常に拮抗し、最低金額を提示したD社が980万円で落札。
そういう風にして、受注業者が決まっていきました。
これで、うまくいっていた時期が長く続きました。
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でもやがて、そういうわけにはいかなくなりました。
「談合」の根拠として、入札した金額の、予定工事費に対する割合(「落札率」)の高さを指摘する場合があります。
予定工事費が1,000万円の工事で、落札金額が980万円だったとすると、
980万円÷1,000万円=0.98 → 落札率98.0%
というわけです。
落札率が低いほど、工事業者は損をするから、入札に参加する業者がみんなで相談して、なるべく高い落札率で仕事が取れるように調整する、ということを「談合」と呼ぶわけです。
市民団体などで、
「こんなに高い落札率、しかも各社こんなに似かよった金額で応札しているのは、事前に予定工事費が漏れていて、各社談合した結果ではないのか。」
と疑問を出すわけです。
役所や業者側は、
「業者側の積算能力の高さを示しているものであって、談合の事実はない。」
と説明するわけです。
積算をやったことのない人なら、この説明で納得してしまうかも知れませんね。
でも、だんだん監視が厳しくなって、バレる例が増えてきました。
また、景気が低迷して、すべての業者にうまく仕事が行き渡らなくなると、「タレコミ」や「談合破り」をする業者も出てきました。
役所OBも逮捕されたりするようになりました。
それ以降、いろいろな「改良パターン」が試されるようになってきたわけです。
ただ、何のための改良かと言えば、
「役人が誰からもケチ付けられて責任を負わされることのないため」
の改良なのでした。
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予定工事費を入札前に事前公表する、という手段を取ってみました。
そうすれば、役所側が「秘密を漏らした」という容疑で逮捕される心配はありません。
でも、これに対しても批判が出てきました。
市民:「それじゃ、もっと談合がやり易くなるじゃないか。」
役所:「それは、やる方が悪い。徹底的に取り締まればよい。」
市民:「でも、当事者たちが『談合していない』と言えば、証拠が無いではないか。」
役所:「業者側の良心に期待します。」
業者:「わたしたちは談合は行いません。」
市民:「今までずっと隠してきていて、信用できない。」
役所側は、秘密を漏らした門で逮捕される心配はなくなりましたが、市民側としては納得がいかないわけです。
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業者側にも不満があります。
業者:「事前に予定工事費がわかっていると、積算能力の無い不良業者が超安値で落札してしまい、粗雑工事で市民に迷惑をかける心配がある。」
役所:「そ、それは困る。・・・じゃあ、こうししよう。最低制限価格も決めます。予定工事費の85%を下回る金額も、失格としましょう。粗雑工事防止のために。」
業者:「てことは、工事を取りたい業者は、みんな予定工事費の85%で応札することになっちゃいますが。」
役所:「同じ応札額があった場合には、抽選になります。」
業者:「えっ、じゃあ、くじ引きで受注が決まるっていうんですか。」
役所:「そういうことになります。」
業者:「実績も、技術力も、経営の健全性も、社会貢献度も何も関係なく、ただくじ引きなんて・・・。」
役所:「むむむ。」
業者:「わが社の将来は、くじ運次第〜。ケセラセラ〜。」
莫大な費用をかけて、こと細かに積算を行い、「厳密な」予定価格を算出し、それをズバッと85%掛けて指値で発注する。
何のための積算基準?
何のための「厳密な」予定価格算出?
単価作成のために結構な費用を掛けておこなった「市場単価調査」の意味は?
施工業者の創意工夫や技術力といった要素は、全く関係のない入札です。
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くじ引きとなる入札があまりに増えたので(受注したい業者は、全社最低制限価格で応札してしまう)、「くじ引き防止対策」を施しました。
役所:「今回の工事の予定価格は、1億円です。なお、最低制限価格は、82%から86%の間で、入札当日の抽選によって決定いたします。」
業者:「どういうとことですか?」
役所:「入札当日、皆さんには応札額を記した入札書を提出していただきます。」
業者:「はいはい。それは今までどおりですね。で、最低制限価格は?」
役所:「入札担当官が、最低制限価格率くじを引きます。くじは82%から86%までの率が描かれた5枚用意されます。ここで引かれた率により計算した金額が、最低制限価格になります。」
業者:「8,200万円から8,600万円の間で、最低制限価格が変動する、ということですか?」
役所:「そういうことです。」
業者:「うちで8,200万円で応札して、くじが83%だったら?」
役所:「最低制限価格を下回るので、失格となります。」
業者:「やっぱり、くじ運か・・・。ケセラセラ〜。」
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ここまできて、ようやく「入札」というものの矛盾に目を向け始めました。
「安いほうが良い」
という選択には、前提条件があったわけです。
「同じ質ならば」という。
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A社製の30Wの蛍光灯を買う場合、
B商会では500円、C電器では550円、Dカメラでは600円だとすると、
B商会で買ったほうが良いわけです。
全く同じものならば、より安く買うことができた方が良いに決まっています。
会計法の趣旨も、そこにあるはずです。
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では、A社製の30Wの蛍光灯が500円、B社製の30Wの白熱灯が300円、C社製の40Wの蛍光灯が450円(30Wは製品無し)であったなら?
全く同じではない場合、条件を指定して比較しなければなりません。
蛍光灯でなくてはならなくて30W指定ならば、A社が採用です。
蛍光灯で30W以上なら良いのであれば、C社が採用です。
明かりが取れれば良くて30W以上ということならB社採用です。
指定される条件によって、採用が変わって来ます。
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建設工事の場合には、「どの業者が施工しても全く同じ」ということは
あり得ません。
上の電灯の例でさえ、いろいろな条件がありました。
様々な要素がある建築物では、条件はいくら指定しても限界があります。
国土交通省で監修している工事の標準仕様書でも、建築工事編、機械設備工事編、電気設備工事編と合わせて、膨大な量があります。が、それですべてを指定しきれているわけではありません。
設計図にも特記仕様書があり、各設計図面があるのですが、それでもすべてを表現し尽くすことはできません。
同じ程度の建物が出来上がった(ように見える)場合でも、そこに至る過程で、自律的に適切な管理を行って施工する場合もあれば、監督や工事監理の厳しい監視のもと何度もダメ出しを受けながらやっとこ完成する場合もあるわけです。
それら一切合財を無視して、タダ単に「金額」だけで決めるのは、いかにも乱暴な決め方なのです。
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心臓手術を受ける場合に、「単に安い病院」を選びますか?
そんなことはありません。いろいろな観点から調べて、自分が最も信頼できる病院と執刀医を選ぶはずです。良いところであれば、費用を惜しまないかも知れません。
建物の場合でも、自宅を新築する時には、「単に安い工事会社」を選ぶわけではないことと思います。よほどの金持ちならともかく、「一生に一度」の大事業なわけですから、いろいろと調べて、最も信頼できるところを選ぶのではないでしょうか。
(安さに飛びついて、大変な目に遭った方も、少なくないことと思います。)
公共工事でも同様のはずです。
末永く使用される市民の財産なのですから、「最も信頼できるところ」で、「概ね妥当な工事金額」のところに頼むのが自然なことです。
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最近は、「総合評価落札方式」というものが徐々に広まっています。
金額だけの比較ではなく、応札業者のいろいろな側面を点数化し、最も点数の高い業者を落札者とする、というものです。
かならずしも最低金額を入れた業者ではなく、「もっとも高得点」であれば少々他よりも高い金額でも落札を認めるわけです。
役所:「これなら、文句ないだろう!」
業者:「では、どういう面に何点を割り振るのですか?」
役所:「以下の項目に関して提案を提出していただきます。それぞれについて検討し、0.0点、0.5点、1.0点のいずれかを与えます。コンクリートの配合に関しては、高品質化提案、ワーカビリティ改善提案、コンクリート打設に関しては、投入・締め固め方法の改善、移動型枠の工夫、施工目地の工夫、コンクリート養生に関する特別な提案、周囲の環境に関する改善提案、以上すべての内容に関する点数を合計し、基礎点の100点を加えたものが得点です。『(得点)÷(入札価格)』を算出して最も数値(評価値)の高い業者を落札者とします。」
業者:「それって、設計図や仕様書で指定されているものではないのですか。」
役所:「設計図や仕様書の指定よりも、更に高品質にすることを提案すれば、ポイントになります。」
業者:「ポイントになる項目は、誰が決めるのですか。」
役所:「学識経験者で構成する第三者委員会で討議して決めます。評価項目は事前に公表します。」
業者:「0.0点か0.5点か1.0点か、誰が判断するのですか?」
役所:「こちらの課長級の担当者が行います。」
業者:「コンクリートの高品質化と周囲環境に関する提案とが同じ重みなのですか?」
役所:「今回の評価基準では、そうなっています。」
業者:「提案による評価と、予定工事金額とのバランスが変に思います。」
役所:「こちらでは妥当と考えております。第三者委員会のお墨付きも得ております。」
業者:「提案内容によるコストアップ分は設計変更により増額していただけるのですか。」
役所:「それらは受注者側の自主的な提案ですので、飽くまで応札金額でお願いします。」
業者:「何か変・・・。」
「総合評価」というと、とても公正な適切な評価をしているかのように感じます。
けれども、「誰が見ても妥当な評価」を創りあげるのは、並大抵なことではありません。(おそらく、ムリです。)
どのような観点が評価対象としてふさわしいのか
それぞれの観点をどのような基準で誰が採点するのか
それぞれの観点の重みをどうするか
金額と得点との重み比較をどうするのか
非常に難しい問題です。
結果として、「基準を明確にして採点し易い項目」だけが評価対象になってしまいがちです。
事例が積み重なって来るほど、「過去問」を参考にして、コストがかからずに点を取りやすい項目を選んで、自社に有利になるように配慮することでしょう。
発注する側も、受注する側も、現在進行形で工夫中、苦悩中なのだと思います。
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公共事業の入札に関しては、「これがベスト」というやり方は、たぶん存在しません。
いろいろと試行錯誤し、より良い手段を模索していくのは良いことだと思います。
が、とにかくも
「役所の職員が責任を負わなくてもいいように。」とか、
「わが社の損害を減らし利益を大きくするように。」という観点ではなくて、
「公共の財産として良いものを残すために。」という観点で、進めていっていただきたいものだと思います。
(「公共工事の、入札。」おわり。)
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「1級製図設備の視点」も興味深く拝見しました。
コンパ、いえコンペ、って難しいですよね。
最近VEの提案も盛り込んだ総合評価制が増えていますが、
バリューエンジニアリングなどなど、
もっと自分自身、勉強しないと提案も上手くいかないなぁ、
研鑽しないといけないなぁと思う次第です。
有難うございます。
これに尽きるんでしょうね。
「数字で評価」できないところにこそ、本当の価値があるような気がします。
けど、やっぱり「数字の評価」も高いにこしたことはありませんし。
変な記事ばかりですみませんが、またお越し下さい。