2006年10月12日

熱負荷計算。

建物の空調設計をする場合、「負荷計算」をすることが多くあります。

「熱負荷計算」とも言います。

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冬、ある部屋を20℃にしたい、とします。

この部屋からは、寒い屋外や暖房をしていない隣の部屋・廊下などに常に熱が逃げていきます。

逃げていくと想定される熱量を計算して、それと同じだけの熱量を部屋の中に供給すれば、その部屋は寒くならずに20℃のままで保たれるということです。

夏は逆に、暑い外から熱がどんどん流れ込んできますから、その分を取り除き続ければ、室内が涼しいまま保たれます。

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冬、暖房負荷の計算を例にとってみます。

部屋には、屋根、壁、床がありますから、それぞれの部分ごとに逃げる熱を計算します。壁には「窓」という、特に熱が多く逃げる部分もありますから、その分は別に集計しなければなりません。

壁はいろいろな材料を組み合わせて出来ています。

室内側から、
室内→仕上げ(クロス)→下地(ボード)→空隙→断熱材→躯体→外装材→屋外
などとなっているわけです。

室内空気から仕上げ表面に熱が伝わる分、
仕上げ内部を熱が伝わる分、
下地内部を熱が伝わる分、
空隙空気中を熱が伝わる分、
断熱材内部を熱が伝わる分(当然、熱が伝わりにくい)、
躯体内部を熱が伝わる分、
外装材内部を熱が伝わる分、
外装材表面から屋外空気に熱が伝わる分

と、順に計算していき、壁1m2あたりどのくらいの熱が逃げるかを算出します。それに壁面積を掛ければ、壁から逃げる熱量がわかります。

壁の内部構造によって、方位によって、条件が違いますので、こつこつと集計していくことになります。

そのほかに、窓、屋根、床(地中にも熱は逃げます)、内壁(隣の部屋の温度条件が違う場合)など、計算している部屋を構成するすべての面について集計して、その部屋の暖房負荷を求めます。

更に、換気を行うことによっても熱が奪われます。「外気負荷」と言います。この分は、局所換気であるか、中央式の換気であるかによって、部屋の暖房負荷に集計するか、別のところで計上するか変わってきます。

24時間ずっと暖房しているわけではない場合には、暖房つけ始めの「立ち上がり」分を余裕値として加算します。

こうして、ある部屋の暖房負荷が1,000Wだったとすると、その部屋には1,000W分の放熱量を持つ暖房器具を取り付ければよい事になります。


中央式の暖房を行う場合には、それぞれの部屋の暖房負荷を建物全体で合計して、その分の能力がある熱源機器を設置する事になります。

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冷房の場合には、暖房のような熱の移動の他に、
・日射による熱の流入
・内部の発熱(照明器具や人体やOA機器など)
・躯体の蓄熱効果

なども勘案した計算となります。

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ものすごく簡略化した場合には、
「床面積1m2あたり、何W(ひと昔前なら、何kcal/h)」
という感じで計算する場合もあります。

ま、だいたいこんなもんだろう、という目安を出すわけです。

電器量販店で売っているエアコンや暖房機でしたら、
「16m2まで」とか「8畳まで」とか目安の面積が書いてありますよね。

あんな感じです。

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上の負荷計算の手順を見て、「ずいぶん細かいな」と感じるかも知れません。

ワタクシも、結構マニアックな計算だなぁと思います。

実験室でのデータを元に、いろいろな数値(熱伝達率とか、熱伝導率とか)を使用するわけですが、それらの数値は本来「だいたい」のものです。
計算に使用する各数値に、「誤差」が含まれているわけです。
熱伝達率なんて、表面が乾いているか濡れているか、外の風速がどうかによって本来ぜんぜん違う値になりますが、そこのところは目をつむって、「エイヤっ」と出している数値を使っています。

したがって、どんなに「正確な負荷計算」を行っても、しょせんは「だいたいの数値」にしかなりません。

「室の熱負荷3,852W」

とか言っても、上から3桁目くらいになるとほとんど意味の無い数字になっています。

暖房機の放熱量も、実験データから「能力3,800W」とか記載されていますが、室条件が測定条件と少しでも違うと、違う能力になります。


なので、負荷計算も、選定機器も、「だいたい」のものです。

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お客さんに、冷暖房の説明をする際には、「設計条件」というものを詳しく説明するほうが良いと思います。

というのも、「冷暖房をつけさえすれば、よく効く」という誤解を避けるため
です。

工事費にどれだけ掛けても良いのなら、
維持費がいくら掛かっても良いのなら、
とにかく強力な冷暖房設備を設置すればよいのですけれども、
そんな事はまずありません。

すると、おのずと「それなり」の能力の設備を設置することになります。

「外気温度−10℃」で計算した場合、たまたま寒い冬で外気温度が−15℃になれば、室内も十分に暖まりません。それは、「計算外」「想定外」の事態なので、仕方がないのです。

どんなに寒い冬でも絶対に適温を死守したい場合には、外気温度を思いっきり低く想定して計算する必要があるわけです。

そういう場合には、暖冬の際には過大で、暖房機の低負荷運転(→効率が悪い)が続くことになります。が、仕方がないのです。
それを避けるために、大きな機器を1台つけるのではなく、複数台に分割して設置して、低負荷の時には運転台数を減らして対応することも考えられます。が、台数を増やすということはその分費用も増えるということでもあります。

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先般の耐震偽装問題で、構造強度をいろいろな方法で計算してみたらいろんな結果が出てきて混乱する、という事態がありました。

でも技術計算というものは、そういうものなのだと思います。

仮定の数値、想定の数値をたくさん組み合わせて計算するわけですから、仮定条件の取り方によって、いかようにも結果が変わってくる。

最も有利な条件を仮定して計算した場合には「まあまあ安全」と出て、
最も不利な条件を仮定して計算したら、「危険」と出る。

当たり前の事と思うのです。


「技術計算は、会計計算とは違う。」

そいういう風に思っていただければ、と思います。


そういう目で見ないと、「膨大な計算書に目がくらんで、本質が見えない」可能性があります。


(「熱負荷計算。」おわり。)

posted by けろ at 22:47| Comment(2) | TrackBack(0) | 空調設備 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なんとなく分かりましたが、やっぱり分かりません。

では壁厚0.00いくつのデータを使って計算する意味はあるのでしょうか。

円周率と同じように3で計算してもよいと言えてしまうのでしょうか。

部屋ごと計算しないで、建物の縦横高さ寸法で一気に計算してもよいのでしょうか。

と思ってしまいます。だって、誤差の範囲だから。。。というのはやはり変に思うのですが。

データは変動しますが
Posted by k at 2011年01月06日 20:45
kさん、いらっしゃいませ。
返信遅くなりましてすみません。

壁厚は、建築設計上で10mm単位で計画されることが多いですから、0.18mとか、0.15mとか、そんな感じになります。
たまに0.5mm単位の壁があって、0.1835mとかなる場合でも、0.184mと小数第3位まで入れれば十分です。小数第2位くらいまでが実際上の影響が出るところではないでしょうか。

実際に、いろんな建物でいろんな部屋について計算してみればわかります。そこで「精度」を上げても、何にも変わりませんから。
壁体の熱通過率を出す時点で、思いっきり切り捨てられているので「精度」は出ないのです。

今は電算ですので、どんなに細かい数値を入力しても大して面倒ではありませんが、あまり細かい数値にする意味はありません。

> 部屋ごと計算しないで、建物の縦横高さ寸法で一気に計算しても

建物全体の熱源容量を概略で計算する場合などではそれでも十分かと思います。
各室につける放熱器(冷暖房機器)の必要能力は、やはり各室について負荷計算しないと出せませんが。

> データは変動

変動する部分は、ほとんど誤差の範囲ですね。
Posted by けろ at 2011年01月12日 01:58
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