そう大きくもない川の岸から、川面を見ますと、
背びれや尾びれがちろちろと水面から出ています。
水中に目を凝らすと、一尾、また一尾と、遡ってきます。
少しずつ地道に、また時として一気に。
進むよりも、流れに押し流される方が多くて、徐々に後退していく鮭。
力尽きて、流されてしまう鮭。
流れのよどんだ部分には、波にゆられつ、死骸が沈んでいます。
よく見ると、あちらこちらに死骸がたゆたっていました。
先日の大雨の際に打ち上げられたか、岸にもひとつ死骸があります。
海洋で成長した鮭が、生まれた川を正しく見出して遡ってくる。
海水から淡水に入り、浸透圧が急変して、相当過酷な状況にもかかわらず、
敢えて遡ってくる。
誰が教えるわけでもなく、道案内がいるわけでもなく、
ただ、ひたすら遡り、上を目指し、そして産卵する。
この行為自体が、遺伝子情報として書き込まれているのか。
何か別の手段によって、子々孫々に伝えられていくのか。
周囲で別の鮭がどんなに死んでいようと、
ただただ遡る。
人類である自分も、鮭に見習うべきなんでしょうなぁ。
死骸の方にではなく、遡る方の鮭に。
いずれ、すべては死骸と化すにしても。
鮭遡る 揺れる骸を 顧みず けろ
(のぼ) (むくろ)
(「鮭の、遡上」おわり。)