【パターン3】意匠設計者が設備設計者と相談して決める場合(2)
基本設計プランの段階で、設備的な相談に入ります。
おおまかな室のゾーニング、断面計画などが見えてきた段階で、設備システムの検討から入ります。
この時点では、かなり自由度がありますから、PSなども比較的取り易く、目的にかなった場所に必要な面積を確保することが出来ます。なおかつ、意匠的なプランとの整合が取れます。
しかし、このパターンの場合には、PS、DS、EPSは大きくなりがちです。
何せ、設備や電気の設計者にとっては、余裕はあればあるほど望ましいので、自由にとなると、思いっきり要望を出してしまうのです。
「何かあったときのため」
「予算が合わなくてシステムが変更になっても大丈夫なように」
「将来の増設に対応できるように」
「配管更新工事の際に、周囲に大きな影響を与えなくて済むように」
・・・理由を挙げていくと、きりがなかったりします。
意匠設計者や建物ユーザーの目には、「ただの無駄なスペース」にしか映りません。
意匠設計者、設備設計者、建物ユーザー(もしくはオーナー)が、建物の使い方、ゾーニングの考え方、保守点検の仕方、改修計画などについて、お互いに意見を交わして、ある程度の共通認識を持っていくことによって、その建物に適したPS、DS、EPSを設けることができそうです。
ある程度大きなプロジェクトの場合には、意匠設計者や構造設計者、設備設計者、電気設計者がそれぞれチームで設計に携わります。プロジェクトリーダーがうまく音頭を取れると、それぞれの領域で理想的かつ全体としても理想的な建物に近付いていきます。
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設備設計者の立場から、望ましいPSとは。
1.十分な有効スペースが確保されていること。
十分な「有効スペース」が必要です。
PSとは縦方向に配管を通すところ。梁などの無い、有効な部分の大きさがモノを言います。
梁の下の空間は、保守スペース(下記参照)になったりします。
2.十分な施工スペースが確保されていること。
配管さえ入れば良い、というわけではありません。
配管は、いろいろな方法で接合していきます。ねじ接合ならば、パイプレンチを回す空間がなくてはなりません。フランジ接合ならば、フランジの分出っ張ります。溶接接合ならば、溶接作業に適した空間がなくてはなりません。管の用途によっては、保温材を巻いたり塗装したりします。
「保温屋さんの手も入らない」ようだと、適切な保温ができず、結露による水損、劣化、カビ発生などを誘発します。
「塗装屋さんのハケも入らない」ようだと、サビ止め塗装が十分に行えず、劣化が早くなります。
3.十分な保守スペースが確保されていること。
主となるPSには、系統分岐のバルブなどが多数入ります。メーター類などが入ることもあります。
バルブが操作し易い位置、高さに設置され、メーター類が読みやすい位置、交換しやすい位置に設置されるよう、スペースの確保が必要です。
その階用に配管取出しをする場合の引き回しスペースも必要です。
4.十分な点検スペースが確保されていること。
「入ることのできないPS」は、「埋め殺し」と同じです。入りやすい位置と大きさの点検口を設けるとともに、実際に体を入れて目で見て状態を把握できるスペースが必要です。
主たるPSには、内部に照明も入ると良いでしょうね。
管の表面に水がにじみ出ている、保温材表面が濡れている、カビている、継手部分にサビが入ってきた・・・など、目視できるのが理想です。
5.改修や更新が考慮されていること。
建物の寿命の間には、何度か改修が行われ、設備の更新や増設が行われる可能性が大です。
PSの規模に応じて、将来的に配管などを通すことのできるスペースがあるのが望ましいでしょう。
更新工事の際には、あいているスペースにまず管を通すことができれば、長時間の断水や大規模な仮設を避けることができます。
エネルギー事情の変化に応じた設備システムの変更も容易にできます。中央式大規模システムから、個別分散システムへ変更したり、蒸気空調から冷温水空調やパッケージシステムへの変更なども、スペースに余裕があれば大きな費用をかけずに施工可能です。
昨今のIT対応も、スペースに余裕のあったビルならば、古い建物でも即座にできたわけです。
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以上は、「設備だけの観点から」記述したものです。
ですから、これらを最優先にする必要はありません。
でも、無視してもダメです。
建物は、意匠的にも、構造的にも、設備的にも、電気的にも、運営管理的にも、そしてユーザー側の要素も含めて、すべての要素が一体となっているものです。
全体の、バランス。
これを求めていけたら良いのではないかと思います。
(「パイプシャフト。」おわり)
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【PS(postscript=追記)】
建築物の安全性確保のための建築行政のあり方について 答申
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/07/070901_2_.html
が、国土交通大臣に提出されました。
建築分科会基本制度部会の経緯については、
http://www.mlit.go.jp/singikai/infra/architecture/kihonseido/kihonseido_.html
特に、最終回(第11回)資料に、答申に至る詳細が記載されています。
設備設計者からのお願い。
いえ、法的には、「建築士から設備に関する補助を依頼された者」からのお願い。
建築士の皆さま、特に意匠設計だけをしておられる皆さま。
どうか、設備を、電気を、理解して下さい。
そして、それらについても、実質的な設計監理を行って下さい。
なぜなら、設備・電気業界から、技術力のある有能な設計者は確実に減っていくと思うからです。
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この答申について、もしも
「再試験が無くてよかった。」
「今までどおり仕事ができる。」
と思っておられるとしたら、それは勘違いだと思います。
今まで、建築士(特に意匠設計者)は、あまりにも設備、電気に関して、無関心でした。見え掛かりの設備以外は、ほとんど無視してきました。そして、無知でした。
そのため、機械室や電気室、パイプシャフト、ドライエリア、その他設備・電気に関するあらゆることは、「補助者」に丸投げにしてきました。
結果、必要性から、設備技術者、電気技術者が、建築に関わるようになってきました。一つの職域が形作られました。
今回の答申は、この現実に「No」を突きつけたものです。
建築にかかわるすべての設計・監理は、『建築士が行うように』と。
構造も。設備も。電気も。
設備「補助者」は、設備システムを決めようが、機械室スペースを出そうが、技術計算をしようが、図面を描こうが、積算しようが、設備工事現場を見ようが、すべて建前上は、設計・監理の「補助」として扱われています。実質は、建築士が設備工事以外に関して行っている「設計・監理」と何ら変わることがないにもかかわらず。
ただし、もはやこの現状は変わってしまうのです。
札幌市のA元二級建築士が行ったマンションの構造設計は、建前上は元請設計事務所の一級建築士の設計でしたが、実質A氏が無資格(本来一級でなければ行えない)でおこなったものと見なされて処分されました。当然、元請事務所の一級建築士も処分されました。
設備・電気に関して、何か問題が起きた場合、同じことになると想定されるのです。今まで「補助」として黙認されていた設備設計は、建前どおり「建築士がするべき業務」となるのです。設備設計者も、元請の建築士も処分(逮捕・起訴も含めて)されるのでしょう。
設備設計者は、
・一級建築士を取り更に特定設備建築士を取る
・「補助」であると言い張ってこそこそと続ける
・もうこの業界をあきらめる。
から選ぶような状況になります。
でも、設備技術者は、建築士の受験資格さえない人が多いのです。
技術領域も、いわゆる「建築学」とは全く異なります。
だから、特定設備建築士には、そう簡単にはなれません。
特定設備建築士は、意匠設計者が必死に勉強してなるほうが、余程なりやすいはずです。
建築士の皆さまは、今までだって、設備設計をおこなってきたのです。書類上は。
設備図にも、建築士名が書いてあり、押印してありますから。
だから、今度は、「実質的に」やって下さいね、ということです。
よろしくお願いいたします。
まさか、設備業者さんを呼んで「設計協力」させるなんていうことはしませんよね。