わたしは設備をずっとやっています。
設備をやっていく上で、建築士資格の必要性は感じていませんでしたが、建築法規を学ぶ中で、制度上は建築士資格がなくちゃダメなんじゃないだろうか、と思い立ちました。(「設備設計」実務を実際に行っているのは……ご存知の通り)
でも建築学科卒ではないのですぐに一級は受けられません。二級から時間を掛けて取り組むことにしました。
二級の試験は、とても簡単に思えました。
過去問集をひたすら眺め、木造住宅の図面をフリーハンドで何度か練習して、1度で合格しました。
周囲は二十歳そこそこの受験生が多い中、肩身の狭い思いをしたおじさんでした。
二級取得後4年間を経て、一級の受験資格ができました。
(後に制度改正で建築設備士にも受験資格が与えられたのですが、当時はまだでした)
最初は無謀にも二級と同じ戦法で行こうと目論んでおりました。ところが、どうも勝手がかなり違うようだと言うことが分かり、書店でいろいろ見ていた中で「製図試験のウラ指導」を発見し、そして自主勉の存在を知り、モノは試しに参加させていただくことにしました。
けれども。
建築の教育を受けず、ド素人から設備業界に飛び込んだため、学科試験がさっぱりわかりません。「過去問題を徹底的に理解すれば合格」と言うものの、問題文の意味すらわからなかったりします。『合格物語』で取り組んだりしましたが、どうにも学科突破が叶いません。
学科や製図対策で自主勉に参加していましたが、ぜんぜんついて行けずただのお客さんにしかなれなくて、参加が心苦しくなり行かなくなりました。
学科3回目で落ちた時、これじゃ駄目だと思って、取り組み方を変えました。ひたすら過去問に取り組みその解説を見るだけでは理解に繋がらないことがわかったので、建築学科で使いそうな「教科書」的書籍を買って、一から学ぶことにしました。計画、構造、法規、施工に関して、いわゆる「試験対策本」ではなくて、「教科書」です。わたしにとっては、そこまで遡らないとダメだったようです。
でもこれが功を奏してか、学科を通過することができました。
学科は通過したものの、建築製図についてはやはりド素人。事務所ビルというわかりやすそうな課題だったのですが、とにかく未完ではなかった、という結果に終わりました。
戦績です。
平成13年(2001年)二級受験・合格。
平成18年(2006年)一級初受験・学科落ち。
平成19年(2007年)学科落ち。
平成20年(2008年)学科落ち。
平成21年(2009年)学科通過・製図初受験(ランクU)。
平成22年(2010年)通過。
今年の製図学習。
チビコマによる大体のゾーニングについては、過去問を参考に移動の際に地下鉄の中などでちまちまやっていました。
便所や階段は『パターン』でいいや、と思っていました。
試験課題が出た日の昼間すぐに大型書店に行って市ヶ谷出版社の「18美術館」を買いました。とにかく一通り読んで、図面を見て、動線や公開・非公開の区分けを観察しました。
実際に美術館にも行って、エントランスから階段、エレベーター、展示室、受付、ミュージアムショップ、ロッカー室、トイレ、レストランなどのつながりを観察しました。バックヤードは見られないので想像して済ませました。ただ、仕事上の打合せや調査でいろいろな施設のバックヤードは見ていたし、学生時代楽器をやっていたこともあって集客施設のバックヤードに関しては使用者感覚がある程度あったと思います。大型楽器の搬入、楽器庫、リハーサル室、ステージ、管理事務室、レストラン、チケットショップなど、今回の美術館に通じるものが結構あったような気がします。
過去問などのトレースは、ちょこっとやった程度です。丁寧に書くほど時間的余裕も無いので、フリーハンドで済ませたのがほとんど。1/200の大きさとゾーニングがつかめればいいやと考えました。標準解答例などをチビコマ、1/400、1/200でそれぞれ書いてみて、スケール感覚を養おうと思いました。
採点する方も数をこなさなくてはならないから、あんまり細かいことは見ないだろうとたかを括っていました。パッと見大枠が分かればいいだろうと勝手に考えました。
それなりに幾つかの課題について考えて解いてみましたが、試験本番と同じだけの時間を連続して確保してやり終えたものは結局ありませんでした。(お陰で本番の試験後にはくたばるかと思うくらい、ヘトヘトになりました)
−−−−−−−
【時間配分】
当初から想定していたのは、
課題読み0.5時間、エスキス2時間、要点1時間、作図3時間
でした。作図は遅いので(早くする練習を殆どしていなかったので)、3時間でも足りないかもと思いました。13:30にはとにかく要点を書き始める、14:30には作図を始める、と決めていました。だいたい、予定通り行きました。
課題読みとエスキスは、要点に書きたい事項をメモしながら進めました。
−−−−−−−
【課題読みとエスキス】
[構造]
最初から全館SRCと決めてかかっていました。問題文を一通り読んで、それで条件違反にならないと判断。そのまま続行しました。
シンボル的建物である美術館で「コスト」要素を強調することは無いと踏んでいました。
地盤が良好ならベタ基礎、総ピットでいいやと決めていました。課題文からそれで問題ないと判断し、それで突っ走りました。耐力壁についても要求が無いので純ラーメンとしました。
[アプローチ]
「公園又は遊歩道からでもよい」とわざわざ書いてあったので、気に留めました。
何も書いていなければ、北側にメインアプローチがあって然るべきでしょうが、わざわざ書いてあるということは、むしろ西側or南側から取って欲しいのでは、と読みました。少なくとも条件違反はならないはずです。「よい」と書いてあるのですから。
実際、ワークショップのために公園・河原とアトリエが連結しなくてはならないので、公園からのメインアプローチが自然であると判断しました。
西向きメインなら北側車道からの導入も不自然ではありません。北側にメインを持ってくると河川or公園にサブを作り、別に搬入経路も必要で、動線がまとまりにくくなると考えました。いくつか捨てプランを作ってみましたが、西側を利用者、東側を管理者で分けると室配置やゾーニング、動線分離上も簡単で判りやすそうでした。素人なんだから、あまり難しくしないほうがまとまると思いました。
実際の美術館の事例からも「正面道路からすぐアプローチ」はむしろ興醒めに思われました。大都市中心部ならば致し方ないのですが、ちょっと郊外であればメインエントランスは敷地の少し奥に位置して、敷地内や周囲の公園をある程度通過してから入るのが「それらしい」ように思われました。
美術館は存在自体がシンボル的なものであり、コミュニティ施設や図書館などと性格が違うものであるという思いがありました。
[設備]
圧倒的少数派に違いない「直膨コイル組込型エアハンドリングユニット」を使うことに決めていました。水搬送系が不要なので「要点」でアピールできると思いました。課題文を読む限り、それは排除されないと判断できました。
「少数派は不利」は神話であって「不可でなければ可」であるという事前からの仮説に基づき進めました。これは思い込みでしかないのですが、「採点」するという観点から考えると明らかな不可以外は減点しにくいものと思われました。
もし、採点側に設備系担当者の関与があれば、「不可」はあり得ません。「普段設備をやっているな」という心象は与えられます。設備系の関与がなくても、「よくわからないから不可」という乱暴は出来ないでしょう。そういう目論見もありました。
ここ数年は「計画の要点」にて説明を加えることが可能ですから、図面以外でもアピールできます。
設備機械室は、キュービクルとエントランス用空調機、収蔵庫用空調機が入るものと想定しました。展示室、ギャラリーの空調機は2階に設け、室外機は屋上にと考えました。最終的には2階の空調機械室が取れなくて1階と屋上に振り分けるということに変更しましたが。
[各室の階振り分け]
各室の想定面積と1階・2階の振り分け上、何室も2階に持っていく必要がありました。
メインの展示室・ギャラリー・ホワイエは2階指定。屋外との出入りが必要なアトリエとレストランは1階。記載内容からエントランスも当然1階。案内カウンターのある事務室も1階。搬入・荷解きと警備員も1階。すると、収蔵庫、ショップ、研修室、館長・応接、学芸、ボラ、休憩、設備が2階に上げられる候補になります。捨てプラン検討によるゾーン分けの結果、研修室と管理諸室を2階にするのが一番しっくりきました。
研修室の使用頻度は決して高くはないと思われ、計画上の重要度は高くないと判断しました。ショップは2階でも良いが、エントランスとの一体感を出したかった(見学した施設の配置がエントランス一体だったので、そのイメージが強かった)ので、1階としました。
ボランティア室はワークショップ講師の室ですが、アトリエに準備室があることから「講師控室」との位置づけと解釈し、隣接や動線配慮は重要ではないと判断しました。共用部門ではなくて管理部門に分類されていることからも、そう判断できました。
[条件の書き出し]
条件はすべて「下書き用紙」に「ビジュアルエスキース」で書き出しました。課題文中の文字をマークしたりしたのでは、パッと見わかりにくいので。
−−−−−−−
【要点】
課題読みとエスキスの段階でメモしていたことを元に、事前に想定していた事柄をからめて書きました。あまり良くわかっていないことはなるべく書かない、という前提で進めましたので項目によって文章量に差が出ましたが……仕方ないと思いました。焦るとまともな文字が書けなくなるので、とにかく要点は作図の前に書いてしまわないとダメだと思っていました。これは昨年度も同様にしていました。
文字をたくさん書くペースや大変さは、他の試験(論文)でわかっていましたので、経験が役に立ったと思います。
−−−−−−−
【作図】
各平面図、梁伏図の柱をまず描きました。次に断面図の外壁、スラブ、梁。そして平面・伏図の内壁、階段。
1面1面描き上げるのではなく、4面の図を徐々に仕上げていく感じで進めました。意匠図素人のわたしには、このほうが不整合を生じにくいように思われました。実際、うっかりスパンを間違えたり1/400で見落としていた不具合を見つけたり、1面ずつ仕上げていたら手遅れになっていたようなミスもあったので良かったと思います。まとまったスペース(直径7m以上の円)が僅かに欠けていて、慌ててスパンを0.5m縮めて無理やり納めたのが、一番焦ったところでした。
何度も「下書き用紙」に戻り、条件の確認、描くべき事項の見落としが無いか確認をやりました。
ほぼ形になった時点で、課題文の要求事項に戻り、鉛筆で丸付けをして、落ちがないことを確かめました。確かめると結構書き漏らしていたことがあって焦りましたが、結果書ききれたような気がします。
製図板、0.5mmシャーペン、消しゴム、直定規(15cmと30cm)、刷毛、マグネット用図面押さえ
を使いました。あまり多くの道具は使いこなせないので。
図面を手書きしていた頃、設備図用に意匠図トレース(ただし裏トレ……)を大量にやりましたが、それを手が覚えていて、「多少の見栄えは犠牲にしてとにかく線を引きまくる」ことは出来たように思います。
まあそれでも作図3時間中後半の1.5時間は「脇目もふらず描きまくる」状態で、余裕は全くありませんでした。
最後の最後に、作図時に見やすくするため柱芯に赤鉛筆で描いておいた赤丸を全部消し(かなり時間を要してしまった)終わった直後、「やめ」の合図。この赤丸は最初から描くべきではありませんでした。
−−−−−−−
振り返ってみて、ランクUでも文句は言えないなぁと思います。VでもWでも、ああそうだったかとあきらめが付いてしまうような出来だったような気がします。自信を持って「T」と言える出来でないのは何とも申し訳ないですが、採点側がそう判断して下さったので仕方ありません。
以上、大変遅くなった試験実況でした。
最近めっきり自宅のPCに向かうことなくなり、あまり皆さんのブログとか見れなくなってたんですが、久々に見させてもらいました。
「経歴(建築卒でない)」は自分もけろさんと同じ!
けろさんも、一級取得されたので、次は「設備一級なんとか〜」を是非めざして下さい(日本の未来のために)。
かくいう自分も、「構造」に特化したいと思いながらも、日々「なんとか系統図」やらにやられている毎日です・・・。
(でも、密かに「構造一級なんとか〜」を目標にしていますが・・・)
お互い、がんばりまっしょう!
ありがとうございます。
製図でランクW2回くらったものとして自身なくしていましたが、工夫すれば何とかという気持ちになってきました。
合格されたのは、自分に合った方法で試験に向き合ってこられたたまものだと思います。
>。自信を持って「T」と言える出来でないのは・・・いえいえ、そんなことないです。
けろさんこそ立派な一級建築士です。
次は設備一級建築士ですね。
私は今年こそ学科通過して合格目指します。
今回の震災、関東全域でかなり揺れた由、また交通機関や電力などインフラに多大な影響が出ている由、大丈夫でしょうか。
ペンギンさんの会社でも、いろいろ対応を検討しておられるようで。
札幌からできることは限られていますが、出来る範囲で協力したいと思っております。
設備なんとか は、今夏講習を受けるつもりでおります。受講料の高いこと高いこと……。
5年間の受験料、登録免許税、登録手数料、事務所登録手数料、設備なんとか受講料で、ウン十万円です。
ただ、この国難の時。こういう「どうでもいい制度」がどうなるか、現時点では全くわかりません。
Ochaさんブログのリンクなどで、たまに見せていただいておりました。
半分放置気味のブログへようこそいらっしゃいました。
少しでも何かのご参考になったのでしたら幸いです。
> 合格されたのは、自分に合った方法で試験に向き合ってこられた
設備畑だけを歩んできた者として、どんな方法が合っているのかわからず、手探りで来たというのが実感です。
設備一級は法適合の試験だけなので、余程ヘマしなければ取れる筈ですが、油断しないようにしたいと思います。
そして、取れたとしても「電気設備設計」をする能力は無い、片手落ちの設備一級にしかなれない悲しい状況であります。
せめて第二種電気工事士から受けて、向上を図る所存ではございますが、前途まだまだです。
ともかくも、生涯学習ということだと思います。
今回の震災の報道を見るにつけ、設備領域の矮小性を思わざるを得ません。が、出来ることをしっかりやり切ることも大切だと肝に銘じております。