コ・ジェネレーションが語られることがあります。
それが、昔ながらのエンジン式のものであったり、
マイクロガスタービン(最近あまり聞かれなくなりましたね)であったり、
燃料電池のものであったり。
発電所(火力や原子力)では、大量の廃熱が発生します。
高温の熱からエネルギーを取り出す過程で、必ず低温の熱を排出することになります。
この熱を有効に利用すれば、エネルギー的に得じゃないか、
というのがコ・ジェネレーションの発想。
それに、大抵は僻地にある発電所から需要地である都市まで、
または別の僻地まで、延々と送電するにもロスがある。
そしたら、需要地で発電したらそのロスが無くなる。
それで、「投入した燃料のエネルギーを有効に使う」
ために、コ・ジェネが推奨されたりするわけです。
じゃ、コ・ジェネは、本当に有効なのでしょうか。
建築士試験的には、「有効」ということになりましょう。
たぶん出題者は、そういう意図で出すのですから。
けど、実際の導入には、よく考えなくてはなりません。
なぜなら、有効かそうでないかは、条件によって全然違うからです。
どんな場合でも有効なら、とっくに大々的に普及しているのです。
そうなっていないのには、理由があるから。
「装置が高価である」だけではありません。
場合によっては、有効どころか省エネにならないこともあります。
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たとえば。
実験的に、会社のPRも兼ねて、マイクロガスタービンを導入した
事務所ビル。
発電した電力は、事務所で使おう。
排熱は、ロードヒーティングに利用して、駐車場の積雪を融かそう。
でも。
電気を使うのは、平日、日中。
積雪を融かしたいのは、平日出勤前の夜間や早朝。
両方同時に需要が無いと、有効活用されません。
電気は貯めておけないので、
平日、日中の電気を賄うためには、発生した熱を蓄熱しておいて、あとでヒーティングに使用する。
または、ヒーティングの熱が必要なので装置を運転し、発電された電力は電力会社に売電する。
コスト的にも、エネルギー的にも、大して得にはなりません。
しかも、夏は……?
冷却塔を介して熱を大気に放出。
単に、発電効率の悪い小型発電機として運用され、
地球温暖化促進に貢献しましたとさ。
ま、当初から以上の予測ができていた上で、実験、デモンストレーションとして導入しただけですから、別に構わないのですけど。
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というわけで、コ・ジェネのためには、温熱需要が常にある施設が望ましいわけです。
廃熱としてある程度の質のものが取り出せるなら、
冷凍機を回したり排熱回収型吸収冷凍機に投入したりして、
冷房にも活用可能ですけど。
そうなると、大規模な施設でないとコストが合いませんね。
そうです。大規模な施設ならコストも合うので、いわゆる「施設群」には「エネルギー棟」が併設されていることが多いものです。
中規模であれば、大浴場とか大規模厨房とか、夏期にも温熱(給湯)負荷がある施設。
どうせ貯湯槽を置くのですから、蓄熱装置を別に設ける必要もありません。温熱を有効に活用できます。
辺鄙な地域の温泉ホテル(実はほとんど沸かし湯)なんかでも、活用されています。
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で、結論は?
有効? 無効?
……こたえは「条件による」でした。
設備系は、マル、バツで簡単に答えを出せないことが多いと思います。
意匠屋さんに言われることがあります。
「ハッキリ結論を言ってよ」って。
でも、ごめんなさい。
言えないんです。
「RC造とS造、どっちがいい?」
と聞かれても、「絶対こっちがいい」って言いきれませんよね。
おんなじこと。
「マル、バツで覚える」のではなくて、
どういう原理のものなのか、
どういう要素から成り立っているのか、
そういう視点で考えると「せつび」も解ってくるのではないかと思います。
(「コ・ジェネレーションは有効か」おわり)
コージェネレーションを導入するのが目的だとしたら、結果がユーザーの要望と違っていても正当なのでしょうが、本来の目的設定が間違っていたといえますね。
いくつか、そのような例を見聞きした事があります。
例1:ホテルの必要設備として、非常用発電機があったので、常用発電機兼用としてコージェネレーションシステムを採用した。
→ホテルの日中の温熱負荷が想定より低かった。(ホテルの利用形態として、近くのアトラクション施設へ宿泊客は日中入場していて、昼間の温水利用はほとんどなかった)
したがって、コージェネレーションシステムとしては、排熱の処理が不可能となり稼動率が低下した。
→現状は、電力会社の季節・時間帯別契約により、コージェネレーションシステムを動作させるよりエネルギーコストは低減できた。
ユーザーの要望はエネルギーコストの低減だったのに、エネルギー利用率を高める提案をしてしまった。(結果としては、電力会社が料金低減メニューを出した為意味がなくなった)
目的はある意味間違っていたわけではないのですが、利用率の算定を間違えていた事と、電力会社が料金低減メニューを出す事が予想できなかった事が問題でした。
例2.温水プールで、コージェネレーションの排熱利用の提案の検証を技術士が依頼された。 技術士は、利用形態のシミュレーションの結果、熱源容量を分割して、利用効率を上げた方がトータルコストを低減できる事を報告した。
→依頼元のエネルギー会社からは、コージェネレーションの導入を利用者が取りやめたので、技術士は非難された。
→依頼元のエネルギー会社の目的はコージェネレーションの導入だったが、技術士はトータルコストの低減の提案を行った。
→目的自体が間違っていたといえる。 利用者側はトータルコストの低減を求めていたので、目的をそこに置くべきだった。 エネルギー会社の目的は、エネルギー利用の転換による、自社利益の確保だった。(トータルコストも下がる場合もあるので、それ自体が間違いとはいえない)
上記は失敗例ですが、成功例も当然かなりあります。(ケース・バイ・ケースという事ですね)
ワタクシの書きました例は、まだマイクロガスタービンが国内で紹介され始めたばかりの頃、アメリカ製の機器をわざわざ輸入して「デモンストレーションで」取り付けたもの。
発電量、発熱量、廃ガス温度、運転音などデータを取る、関連学会など見学会で見せるなどの目的で設置したようで、そういう意味では目的を達したのだと思います。
> ケース・バイ・ケース
失敗も成功も、クライアントの要求も、意匠屋さんの提案も……。