2009年01月04日

建築設備士から0.3%

平成20年一級建築士試験の合格者が先日発表されました。
http://www.jaeic.or.jp/1k-goukakusya.htm
(平成20年12月18日 財団法人建築技術教育普及センター)



「今頃、何だ……?」

すみません。発表からだいぶ時間が経ってしまいました。
なかなか、記事にまとめられませんでしたので。


センターのWEBページより合格者の属性を一部引用します。

−−−−−−−以下、グラフから引用−−−−−−−−−−−−−

1.学歴・資格別

  大学 74.2%、 二級建築士 16.7%、 各種学校 6.1%、 
  建築設備士 0.3%、 その他2.7%


2.職域別

  設計事務所 35.3%、 建設業 33.0%、 プレハブ住宅会社 8.0%、 
  官公庁等 6.8%、 その他16.9%


3.職務内容別

  建築設計 47.0%、 現場管理 16.5%、 構造設計 6.4%、
  工事監理 5.8%、 その他 24.3%


4.年齢別

  24〜26才 18.0%、 27〜29才 27.5%、 30〜34才 33.4%、
  35〜39才 14.2%、 40才以上 6.9%

−−−−−−−−引用ここまで−−−−−−−−−−−

以上の属性からは、

「大学を出て、設計事務所(もしくは設計施工の建設会社)に勤め、建築設計に携わる若い人」

というのが一般的であることがわかります。

意匠設計を志す人たちは、概ねこのようなルートを経て一級建築士になるのであり、当然と言えましょう。

ワタクシは構造の方のことはよくわかりませんが、構造について教える教育機関があり、やはり構造設計の事務所などに勤務するルートなのかな、と思います。
(情報ありましたら、教えて頂けるとありがたいです)


では、設備設計(関連業務)に携わる人の大多数はどうなのでしょう。


ワタクシも、業界人について広く知っているわけではありませんので、飽くまでワタクシの周囲の方たちに限った話しかお伝えできません。

が、設備に携わる人で、一級建築士になる人は、主に次の2ルートかと思います。


1.工業高校、高専、専門学校、大学等の建築科で建築設備を学び、
  総合設計事務所に勤務し設備に携わり、経験を積んで一級を受ける。

 → 割合としてはとても少ないように思います。
   一級の受験資格を得られる学科で設備を専門に学ぶ人はごくごく僅かと
   思われます。
   中には、意匠を志していたのに設備部門に配属されてしまい……などという
   気の毒な(?)方もいらっしゃるようですが。


2.機械工学や電気工学を学び、設備工事業や電気工事業に携わり、
  経験を積んで管(電気)工事施工管理技士などを取得。
  その後設計事務所(設備専業を含め)に転身、更に経験を積む。
  建築設備士にチャレンジ。更に二級建築士を受ける。
  実務を更に積んでから、一級の受験資格を得る。

 → 平成20年の試験から、『建築設備士として建築に関して4年以上の実務の
   経験を有する者』が受験資格を得られるようになりましたが、
   それ以前は二級を経由して受ける以外の手段がありませんでした。
   このようにして一級を取得する方は、大変少なかったと思います。
   当然、設備技術者の一級受験者の年齢は高くなります。


今回、『建築設備士』のカテゴリでの合格者は0.3%。
とても少ないと言えるのではないでしょうか。
合格者4,144人に対して、11(0.25%)〜14人(0.349%)です。


ワタクシの周囲でも、全滅でした。
まあ、そうでしょう。一般的進路で受験する意匠屋さんでさえ、数年かけて合格を勝ち取ることの多い一級建築士。
設備屋が、年が明けてから受験資格を与えられて、それじゃぁと受けて、一発で受かるなど、多いわけがありませんね。


ただし「設備技術者の合格者が0.3%」ということにはなりません。

上記2のように、今回の制度改正以前から一級受験を長期計画でのぞみ、二級経由で受験した人もいる(決して多いわけではありませんが)からです。
その区分の合格者は、ワタクシの知人にも1名いました。

もちろん、上記1の「正統的」ルートの方で、いきなり一級を受ける方や二級経由の方も居るでしょうから、合格者中の設備技術者はもっと多いことでしょう。


だから、合格者の内訳で設備技術者は0.3%よりは、だいぶ多いはずです。
多めに見て、全国で80人(2%)くらいは誕生したのではないでしょうか。
見積甘過ぎますかね。
(ワタクシも早いとこ、そのお仲間に入れるようにしたいとは思うのですが)
このうち、機械系が何人、電気系が何人、というのはわかりません。
電気系は相当少ない。そう思います。


ただ、「職務内容別」に「設備設計」の項目はありません。
「その他」にまとめられてしまっております。

そもそも法的に「設備設計」に携わっていた「一級受験者」はだいぶ少ないわけで。
建築設備士ルートの人は「設備設計」は行えず「意見を言う」業務ができるのみですから。

そのあたり、あまりハッキリさせたくなかったがために、職域属性で「設備設計」を表示しなかったのではないか、と思ったり。

資格属性では、たった0.3%の建築設備士もちゃんと表示しているのですが、職務属性の率は表示できない。


今般、「設備設計一級建築士」は沢山誕生しました。
設備設計に5年間以上携わった方たちなのだそうです。

不思議な出来事のように思われます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

来年からは、職務内容の属性区分はもう少し詳しく表示すべきだと思います。

設計(建築、構造、機械設備、電気設備、その他)
現場管理(建築系、機械設備系、電気設備系、その他)
工事監理(建築、構造、機械設備、電気設備、その他)

この区分がはっきり出て来ると、

「電気設備の設計や工事監理って、一体誰がやるの?」

という当たり前の疑問が出てくることでしょう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

そんなわけで、設備技術者で一級建築士になる人は、かなり少なかったのです。
これからも、たぶん少ないのです。

もっと言えば、機械設備系はそれでもある程度居るでしょう。
電気設備系は、とても少ないと思います。


施工業界からの転身が多い業界。
施工管理応援、施工図描きなどから、設計手伝いなどを経ていくパターンが多いかも知れません。
機械系は電気系に詳しくないし、電気系は機械系に詳しくない。
自分の専門領域外も一所懸命に勉強して、何とか建築設備士まで取っても、その後4年間の実務を経ないと一級が受けられない。

一級に合格しても、「建築士として」登録後3年以上の業務経歴がないと管理建築士になれませんから、「設備設計事務所」として独立することもできない。
でも、意匠屋さんが雇ってくれるはずもなく、体の良い「安く仕事を受けてくれる便利な外注」として宙ぶらりんにやっていくしかない。


一方では設備屋に「最低限、一級建築士を取れ」と言い、
でも設備屋には取りにくい制度にして、取っても独立できない制度にして、
それなのに雇ってもくれなくて。

「じゃあ、どうしろっていうの?」

「しかるべき管理建築士を雇いなさい。設備設計一級建築士も持っている人がいいでしょう」


と言って、一級と管理建築士資格を両方持った建築士を雇用する経済力も無く。
ごく一部、その経済力を有する事務所が、そのような人を管理建築士に据えることでしょう(いえ、現在でも実際にそういう状態なのですが)。
かくして、「設備設計一級建築士を管理建築士とした設備設計事務所」が出来あがります。制度上完璧で、非の打ちどころのない設備設計事務所でしょう。

実態が伴っていないだけです。  ……って、そこが一番問題だったのじゃないですかねぇ。


設備設計一級建築士は、ある程度の人数が確保され、国交省としては計画通りなのでしょうけど、実際の取得者は普段「設備設計」をやっていない意匠屋さんが大多数。


国交省では『高度な専門能力を有する建築士による適正な設備設計』が行われるようになるのだ、と説明しています。

……そうなると、いいですね。


(「建築設備士から0.3%」おわり)
posted by けろ at 21:53| Comment(2) | TrackBack(0) | 建築士制度 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
けろ様、構造設計技術者の場合は、大部分は建築系(建築学科・建築工学科等)の出身だと思います。(建築系学科以外は、土木系学科、機械工学系学科、造船工学科など、構造力学・材料力学を専攻した人だと思います)
なお、今回の建築士法改正により、来年度入学の学生からは、指定科目の履修(一級建築士で、実務経験2年の場合は、必須科目30単位を含む60単位以上)が義務付けられるので、今まで、受験資格のあった土木工学科は、ほとんどの大学で受験資格が無くなる事になります。(機械工学科・電気工学科も今までどおり受験資格を得るのは難しいでしょう)
他学科履修で、指定科目を履修しようとしても、建築設計製図が必須科目に入っているので、事実上そのようなカリキュラムは、ほとんどの大学で用意しないのではないでしょうか?(むしろ、建築系学科で、機械工学科や電気工学科の授業を履修する方が容易です)
設備設計を専門とする、一級建築士合格者は、例年100名前後といわれていますので、今年は、建築設備士資格のみで合格されている人も11〜14人いるので、120〜130名程度はいるのではないでしょうか?
建築設備士の出身学科の比率は、建築系4割、機械系3割、電気系3割らしいので、特に電気設計者の割合が低くなっています。(建築系は、ほとんどが、衛生・空調でしょうから、電気設計はほぼ3割となります)
一級建築士資格を持つ電気設計者だと、数10人いればいい方ではないでしょうか?(建設業協会(BCS)会員企業所属の一級建築士資格を持つ電気設計者は4名といわれています)
国土交通省の意図する、設備設計者のルートは、建築設備士取得→一級建築士取得→設備設計一級建築士指定講習修了のようですが、受験回数が限られるので、現実的なルートとはなり得ないような気がします。(受験回数が多ければいいという訳ではありませんが、それなりに場数は踏んだ方が合格の近道にはなります)
世界的不況から、輸出産業の低迷が予想され、内需拡大を目指す政策を取らなければいけない時に、たまたま建築士法・建築基準法の改正施行時期がかちあってしまいました。
設備設計一級建築士・構造設計一級建築士は、ほぼ必要数の確保はできましたが、構造設計一級建築士はまだしも、設備設計一級建築士の法適合性確認・設備設計の実施がはたしてうまく運用できるのかは、まだまだ未知数のような気がします。(不況によって、設備設計一級建築士の関与すべき建築物の設計自体が激減する事は予想できますね)
Posted by masa at 2009年01月05日 02:27
masaさん、いつも詳細な考察をありがとうございます。

そうですか、120〜130名見込めますか。
だとすると3%は居るわけですから、ぜひ職務内容区分に表示して欲しいものです。「設備は大事」と言っておきながら「その他」はないですよね。

電気3割とすると、約40名。今後少し増えて毎年50名が輩出されるとしても、20年間で1,000名。本当に電気設備が判って「設計」できる人がこれだけで十分なのでしょうか……。
Posted by けろ at 2009年01月05日 10:27
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