2008年07月16日

直結増圧給水方式

最近、マンションなどでは、ほとんどこの方式になっているようです。
(と言っても、当地のことしか知りません)


水道事業者ごとに、方式の名称を決めているようで、
当地では「直結加圧給水方式」と称しています。


受水槽を置かない
 → スペースの節約・設置費用の節約
 → 配水管(俗に水道本管)と同様の供給水質

ということで、メリットが強調されることが多いようです。


「ねえ、このビルを増圧加圧給水に変更したいんだけど、どうかなぁ」

そんなご相談を受けることもあります。


その時には、「ハイハイわかりました、いいですねぇ」と
安請け合いはしないように気をつけています。

物事には多面性があって、メリットもあればデメリットもあるし、
どこに一番価値を置くかによって、それも変動するからです。

一通り説明してから、判断していただくようにしています。


メリットとしては、前述の他に、

・水槽の清掃費用が不要

  受水槽や高架水槽は、必ず清掃しなくてはなりません。
  まあ、清掃直前の水槽を見たことがあれば「しなくていいや」とは
  思えないかも知れませんが。

・電気代の節約(配水管水圧を利用できるため)

  配水管水圧が高い地域では、ほとんどポンプが運転しなくても
  各住戸に給水されてしまう、なんて場合もあります。

・停電時でも給水可能(ただし配水管水圧で賄える階まで)

  ポンプが動かなくても、直圧給水可能範囲では給水されます。

などがあろうかと思います。


デメリットとしては、

・インフラ整備費がかかる

  各建物で費用が節約できる分、水道施設のインフラは充実
  していなければなりません。
  税金や水道料金を通じて、結局ある程度負担をしているわけです。

・断水時には給水不能

  直圧ですから、配水管で工事があったり、災害時など、
  断水になった時には水が使えません。
  受水槽や高架水槽があれば、貯めてあった分だけは使用できます。
  ただし、地震時には貯水してあった水が失われないように、
  それなりの対策(可とう継手、緊急遮断装置、など)を要しますが。

・引込管径が太くなる

  貯めておいて使うのではなくて、必要の都度配水管からもらってくる
  わけですから、太い引込にしなくてはなりません。
  水道事業者により規定が違いますが、
  50φまでならポリエチレン管で良かったものが、75φ鋳鉄管引込になったり
  すると、引込工事費がグッと跳ね上がります。

・使用管材に制限を受ける

  受水槽で縁を切らないため、配水管と同程度の配管材料を
  求められます。
  これも水道事業者ごとに規定が違うことと思います。

・使用水圧が高くなる

  受水槽を置く場合、大抵は「5k仕様」の配管系で済みます。
  バルブ類はみなJIS5K(今なら、JIS0.5MPa)仕様ということです。
  直圧の場合には、「10k(1.0MPa)仕様」です。

  「現在の配管のまま、受水槽を取っ払って、加圧給水ポンプを
   増圧給水ポンプに取り替えればいいので簡単」
  とはならず、バルブをすべて取り替えなければなりません。
  チャッキバルブのように元々10k仕様のものは、そのままで
  良いのですが。

・事業者により採用不可とされている用途もある

  採用可能用途が集合住宅とか、事務所ビルとか、限定されています。
  ホテルとか飲食店など、一度に多量の水を使用する用途の建物では、
  「配水管がもたない」ですから、採用することができません。
  こういう建物では、当然ながら受水槽も大きくなります。

などでしょうか。


まあでも、イニシャルコストが少なくて済むことが多いですし、
断水や災害のことはあまり重要視されないのが普通ですから、
説明を受けた上で「やはり増圧給水がいい」という結論に
なることが一般的でしょう。


でも、一応設備の業界でメシを食ってる者としては、
「説明責任」を果たしたいと思って、
うるさがられない程度にちゃんとお話ししようと思うわけです。


(「直結増圧給水方式」おわり)


【付記】

まあ、説明を受けた方は、面倒くさいだけなんですけど。

posted by けろ at 02:27| Comment(7) | TrackBack(0) | 衛生設備 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 恥ずかしながら、私の施工地域は、直結増圧給水方式認められていない方式です。
 平野部で直圧0.3前半〜0.3後半MPaです。
以前ポンプメーカーさんと話したところ、
「この地区では、圧が小さいのでまだ先の話ですよ」といはれてました。
ただ、山間部の村では、受水槽が高い位置なので一般家庭で0.63MPa(計測した中で最高値)小フラッシュがとまるたびに「タン、タン」と音がしています。管理はどちらも同じ水道局です。こちらは、村なので、需要がないですが。
 
 
Posted by つなぎの水道屋 at 2008年07月18日 22:35
配水池が高いところにあると、
特別な装置がなくても圧を確保できますよね。

地形の恩恵って、大きいものです。

あとは、配水管網の整備状況如何でしょうね。
Posted by けろ at 2008年07月18日 23:29
東京都の場合は、既存改修の試験水圧が緩和されています。(1.75MPa→0.75MPa)
もしかしたら、5Kでもいけるのかもしれません。
直結増圧もしくは、直結給水を増やすよう、厚生労働省から指示があるからでしょうか?
Posted by masa at 2008年07月18日 23:41
情報ありがとうございます。

当地の官公庁の災害時対応部署では、災害時の水源確保のために
直圧給水庁舎を受水槽方式に改修したりしているくらいですが……。

受水槽や高架水槽の衛生管理があまりに杜撰だ、という
実態があるのかもしれません。
Posted by けろ at 2008年07月19日 14:09
防災対策は、内閣府の仕事で、厚生労働省の健康局は関係無いという事でしょう。
受水槽の小規模のものは、衛生管理も難しいし、テロ等による薬物投与の危険性もあるので、望ましくないという事でしょう。 簡易専用水道以上の施設や、建築物衛生法の特定建築物などは、保健所で指導できるので、それ以外の建築物は直結給水とする方が望ましいという事なんでしょうね。
東京都では、現在小学校の水飲み水栓の直結給水化推進事業も進めています。
「二一世紀に向けた水道整備の長期目標」について(平成三年六月一日)(衛水第一六五号)(各都道府県知事あて厚生省生活衛生局水道環境部長通知)
を元に直結給水を推進しているという事なのでしょう。(一応、この通知では省エネルギーの観点からも直結給水が望ましいとされています)
Posted by masa at 2008年07月19日 15:46
 けろさん私は本管仕事(配水管以前の施設)に疎く、少し言い訳の補足をさせてください。
 山間部とさせていただいた所は簡易水道水源なので、平野部は別の配水地(浄水施設等)があります。
 ただ、減圧弁は、高さに応じてあってもよいとは、思いました。
 ちなみに、私の施工地域では、直圧は3Fまで4Fは受水槽を設置しないといけないです。
 masaさんが仰っていた、「既存改修の試験水圧が緩和(1.75MPa→0.75MPa)」私の地域も同じで、「もしかしたら、5K・・」当地ではそれ以○も認められたケースもありました。
Posted by つなぎの水道屋 at 2008年07月19日 17:42
masaさまは、お役所の事情にも大変お詳しいですね。

昔から問題にされていますが、「縦割り」の弊害はいろいろなところで出ていますが、なかなか改善は難しいのでしょうね。役所に限らないことですが。


つなぎの水道屋さんの地域と同じく、当地でも直圧給水は原則3階までです。
が、配水管圧の条件次第で5階まで直圧が認められますし、直結加圧給水も大抵OKが出ています。
(たまたま、なのでしょうけど、ワタクシはまだ不可の回答をいただいたことがありません)

8階建てマンションで直結加圧に改修した結果、本管圧が高い(0.6MPaくらい)ため、あまりポンプが動かない、ということもありました。こういう所では、5K弁はダメですね。
Posted by けろ at 2008年07月19日 18:06
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