2008年07月10日

スーパーマン。

世の中には、すごい人もいるものです。


ある一級建築士の方。

構造設計一級建築士と設備設計一級建築士の両方の講習を
お受けになったとか。

講習を受講できるのですから、

一級建築士として5年以上の構造設計の業務
一級建築士として5年以上の設備設計の業務

に、それぞれ従事していたということです。


「設備設計の業務に従事した」

……これは決して、誰か他の設備技術者に計画を立てさせて
計算書を作らせて作図をやらせて、
「『うん、いいんじゃない』と印だけ押した」ということでは
ありませんよね。

自ら計画を立て、計算書を作り、図面化する業務であるのです。
業務量の関係上、設備技術者の手を借りることはありましょうが、
「全部自分でやる能力がある」のが大前提であることは
言うまでもありません。



この方は、自分1人で、

・意匠全般
・高度な構造計算が義務付けられる一定規模以上の建築物
・3階建て以上、かつ、床面積5,000m2超の建築物の設備

の『設計』ができるのです。
『設計をする能力』があるのです(時間さえあれば)。


構造についても、設備についても、
『高度な専門能力を有する建築士』
であるということなのです。
そういう定義なのですから。
http://www.icba.or.jp/kenchikushiho/kaiseiho-gaiyo.pdf


それだけの経験と自負と自信とがあるから、
受講を申し込まれたのでしょうね。



『設計』ができるのですから、
この方の責任において『設計図書』を作成できます。

つまり
『建築物の建築工事実施のために必要な図面
 (現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書』
を作成できます。


すごいなぁ、と思います。


高度な構造計算書を作成してそれに基づいた構造図を作図できる。
(ワタクシは、構造のことは良くわかりませんが)


中央式の空調・換気・給排水設備などについても、
システム計画から容量計算から作図まで、こなせる。
系統図、フロー図、平面図、詳細図を描ける。
それらの中央監視制御や個別制御にも精通している。
大規模施設の設備ですから、その他に循環ろ過やら中水やら
医療ガスやらクリーンルームやら、各種設備満載です。


特高受電をはじめ系統連係やコ・ジェネ、
防災、弱電、通信系の計画や計算ができる。
結線図、系統図、平面図を描ける。


設備に関わっている技術者でも、
空調衛生設備と電気設備の両方をこなせる人は、多くは居ません。
それぞれ全く異なる技術体系ですし、次々に新技術・概念が出てきますから、
両方に精通するのは大変困難なのです。
特に、大規模な建築に関わるものであれば。


仕様書も「責任を持って」作成できる。
ワタクシは構造の仕様書のことは良くわかりませんが、
設備や電気の仕様書って、かなり微に入り細にわたっています。
設備一筋ウン十年やっていても、なかなか難しいものがあるのが、
設備の仕様書だったりします。


大したお方だと思います。

『スーパーマン』とお呼びして差し支えないと思います。


こういう方が、まさに求められていたんですよね。

こういう方たちが大勢活躍しておられたら、
耐震偽装事件など起きなかったでしょうに。


……ふと、疑問。

この「スーパーマン」の方たちは、
今まで、どこで何をしていたのでしょうね。


突然湧いて出てきたのが、とても不思議です。


(「スーパーマン。」おわり)


【追記】

えっ? そういう方って、結構いらっしゃるんですか?

構造一級も、設備一級も、両方受けてる方。

ワタクシが今まで仕事してきて出会った一級建築士の方々が、
奇遇にも設備を良く知らない方ばかりだっただけで、
実は設備に詳しい方のほうが一般的だったんですね。
おまけに構造にも詳しいのですね。

ああ、ワタクシは世間一般を知らぬ井の中の蛙。
哀れな者でございました。


【追記2】

と、皮肉ってみたところで、
「蛙の面にしょんべん」
だったりします。
posted by けろ at 09:44| Comment(2) | TrackBack(0) | 建築士制度 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私の社内でも、両方受講者はいます。
スーパーマンは突然現れたわけではなく、今も存在しているわけです。(現行法規では、自ら設計する限り、1人で設計図書は出せるわけですから)
実態がどうであれ、設計図書すべてが、1人の建築士の記名・捺印ですまされているわけです。
両方受講している一級建築士は、国土交通省住宅局が、国会の国土交通委員会の質疑回答で、回答した、「一級建築士の独占業務権限に変更はありません。 ただ、一定規模以上は、指定講習を修了した構造・設備設計一級建築士の法適合性確認が必要なだけで、両方共修了すれば、現在と同様の業務が可能です。」を素直に解釈しただけなのでしょう。 みなし講習では、業務経歴は設計及び、工事監理に従事した期間が通算5年以上、業務比率は関係ありませんと記載しています。 なおかつ、修了考査に講習テキスト参照可と記載されていれば、容易に取得可能と誤解(誤解ではないのかもしれませんが?)するのも無理は無いでしょう。 設備は7/13、構造は7/20に修了考査があります。 修了考査の内容は月曜日には明らかになるので、そこでこの講習の結果はある程度明らかになるでしょう。(試験内容で、ある程度国土交通省住宅局の方針もわかると思います)
Posted by masa at 2008年07月11日 01:50
masaさま、いつもご投稿ありがとうございます。

『実態がどうであれ、設計図書すべてが、1人の建築士の記名・捺印ですまされているわけです』
が良くなかったという分析から敢行した制度改正の筈だったのですが。
現状では「看板の掛け替え」としか言えませんね。


世間に対しては、

「構造・設備に詳しい『高度な専門能力を有する建築士』ですよぉ〜」

と宣伝しておいて、内向きには

「構造・設備を『少し知って』いれば授与します。今までと変わりませんよぉ〜」

国交省の考える『高度な専門能力』について、
説明が欲しいところですね。

……やっぱ、詐欺的。


試験後の分析、期待しております。
Posted by けろ at 2008年07月11日 08:32
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