エネルギー政策の転換によって
国内の炭鉱街は、一挙にその住民を失った。
散在する集落を維持できなくなって
過疎化と高齢化に伴って
行政やインフラの効率化・縮小化を進めざるを得ず
集落まるごと、
そのあたりの街まるごと、
廃止されてしまったところがあちこちに残されている。
上下水道の供給も、
防火体制の維持も、
道路維持も、
ごみ処理や除排雪も、
一切の行政サービスを中止してしまう。
維持する費用も人材も確保できなくなってしまったから。
そんな街の一角に、
かつての共同浴場が残されていた。
もう、解体する費用も出せない。
解体整地したとしても、
用途があるわけでもない。
ただ、そのまま放置するしかない。
そんな感じなのだろうか。
換気用のフードと、
ストーブ用のFFトップと、
屋根の上の煙突とガラリ。
便槽もあるようで、
そもそも公共下水道が整備されないまま
廃止されてしまったということだろうか。
加熱用ボイラーの燃料として用意されていた灯油も
もう使われることはなかろう。
ちょいと残油があるかのように見えるのは
実際にあるのか、油面計がイカれているか。
危険物看板も、もはや無用である。
ここを利用して育った人たちも、
すでに高齢者の括りに入っているかどうか。
諸行無常である。
が、世界情勢を鑑みるに、
戦争や災害でもたらされたものではなくて
産業転換による衰退なのだからして、
それほど悲惨なことでは無いと言っても
過言ではあるまい。
時代の流れ。
そう、受け取ることができるのだから。
(「廃浴場」おわり)