2023年10月02日

学校にエアコン

衣替えの暦もやってきて
ようやく、辛うじてようやく、
猛暑もおさまりつつある今日このごろ。



余りにも、あまりにも厳しい暑さであったために
(もっとも、このところ年中行事のようにもなっているが)
学校にエアコンを設置する、という需要が爆上がりである。



比較的標高の高い山間地や東北北海道など
「冷涼」と言われた地域でももはや生存必需品といわれるばかりの
存在となりつつある、エアコン。



ただね、一般の方々にとって「エアコン」というと
6畳間に取り付けるような、壁掛けのルームエコンなんだよね。


「たかがエアコンをつけるのに、
 なんで何千万も何億もかかるんじゃ!
 ヤマダ電機に注文すれば、はるかに安く買えるじゃないかっ!
 建設会社を設けさせるための、馴れ合いじゃぁ!
 汚職じゃぁ!
 市長、辞めろぉ!」


そんなケッタイな抗議が入るところもあるとか。


家電量販店で5万円くらいでエアコン本体を買ってくれば
それで使えると思ってるのかしらん。

というか、何にも考えていないんだ。


そもそも、住宅用の製品とは必要な能力が違う。

部屋の面積が違う。

児童生徒の人数が違う。
1人あたり約100ワットの発熱があるんだから
30人いたら、人体発熱だけで3キロワットだ。

照明の数も違う。
最近はLED化されているとはいえ
住宅の照明とは、数や総発熱量がぜんぜん違う。

日射負荷も、違う。
旧基準で建設された校舎は、
天井が高く、窓面積も多い。
カーテンを引くにしても、差し込んでくる日射負荷は
相当な熱量になっている。

蓄熱負荷も、違う。
鉄筋コンクリートの塊である校舎と、
木造の住宅とを同列に語ることなんかできないのだ。

そもそもね、
鉄筋コンクリートの古い校舎なんて、
下手したら無断熱だったりする。

たといあったとしても、
現代の省エネ基準とくらべたら
無いに等しい、貧弱なものだ。

とにかく、住宅なんぞに比べると
格段に大きな能力を必要とする。



設置するとして、室内機は一体、どこに置くか。


23100201.JPG


ふさわしい場所が、必ずしも見つかるとは限らない。

少子化に伴って1学級の定員が減っているら
1クラス45人だった頃に建った校舎であれば
面積的に、ある程度余裕があるかもしれない。

床を効果的に利用しようと思うなら、
天吊で設置することも検討の俎上に上るだろう。
が、吊る元となる躯体強度は大丈夫か?
なんていう懸念も生じてくるかもしれない。



室外機は、どこに置くか。


23100202.JPG


室内機の極力近くに、
すぐ外に置くのか。

1階なら、すぐ外の地面に置くのか。

2階以上なら、どうする?
ベランダ的な構造があれば、そこに載せる?
台数が多い場合、構造的にもつ?
たいてい、片持ち構造だろうからね。

屋上に並べる?
重たいものをズラッと並べたとして、
躯体の構造強度は大丈夫?



室内外の機器を結ぶ冷媒管は
どんなルートで通せば良い?

壁や窓や床を貫通させて通すことに
支障はない?

防火区画処理とか、開口部補強とか、
必要にならない?

梁とか柱とか耐震壁とか
そもそも通せない場所を避けて計画できる?



そして、これだけのエアコンを取り付ければ、
使用する電力も、ものすごく多くなる。

となれば、既存の電気設備ではぜんぜん足りないのだ。



電力引き込みから、やり変えなければならない。

トランス容量だって足りっこないから、
受変電設備も大改修あるいは総取り替えだ。


それ以降の幹線ケーブルも、
既存系統とは別に確保して、
冷媒管同様に、通せるところを吟味しなくてはならない。



そんなこんなを、
現地調査して、既存状況を確認して、
条例も含めた法規チェックなどもおこなった後に
負荷計算、空調機容量計算、受変電容量計算、幹線ケーブル容量計算、
構造計算、二次部材の強度計算、その他もろもろの計算をして
電気設備・空調設備・構造補強・内装仕上等の解体補修の計画を進める。


既存撤去のための図面群と、改修用の図面群を整備して
各種積算基準に則って積算し、見積を徴収し、
公共工事として発注するに足る設計図書をまとめあげる。



設計料だけで、結構な費用になるのだ。
人海戦術、時間と手間を大量投入しての作業になる。



そうやって算出した予定価格を元に、
工事の入札を行う。
議会案件になることもしばしばである。



「ケーズデンキの在庫一掃処分でいっぱい買ってくれば済むだろ?」


そんなわけには、いかないのである。

そんなことをいくら説明しても
「難しいこと言って誤魔化そうってったって、
 そうはいかねぇぞ!」
ただただ「高すぎる」「役場と業者の馴れ合い」という
強烈な思い込みに凝り固まった人には、届くことはない。

可哀想なのは、それを担当することになってしまった
役場の職員だよね。


正当な主張ならいいんだけれども
ただの言いがかりでイチャモンをつけるようなクレームばかりだと

「じゃあ、もう、エアコンつけるの辞める」

そうなってしまったら、どうすんの。

「ワシらが子供の自分にはなぁ、エアコンなんてものは無くってなぁ、
 それでも元気に走り回っておったんじゃよ」

時代が、違うんだよ。

気候も、違うんだよ、確実に。



ま、とにかく、大変な攻防が、
今もなお、全国各地で繰り広げられていることだろう。

ご愁傷さま。



ただね、更に困るのは、設置工事が終わったあとなんだ。



設置費は議会で通るのだけれど、
これから後、未来永劫かかっている維持費が
従来からの緊縮財政で絞られたまま……なんていることも
あるんじゃないだろうか。


それじゃあ、ダメなんだ。


「わが校の電気代が厳しい状態になっているから
 エアコンは極力使用しないでください」

事務長から、通達が出かねない。



自動車だってそうでしょ?

初期の購入費用だけじゃないでしょ?


日々の燃料費、
時々の点検整備費、
故障時の修理費、
車検や税金や自賠責などの法定費、
法定じゃないけど必須の、任意保険料。


維持運用するためには、
それなりの費用がかかるでしょ?



だから、設備設置費だけOKして
運転費を却下しては、ダメなのだ。
それじゃ、意味がないのだ。



かつて、ワタクシが通っていた学校にも
冷房があった。

しかも、パッケージエアコンじゃなくって、
今思えば、冷凍機と冷却塔とエアハンを擁し
ダクトを経由して各室に冷風を送る、
本格的な冷房システムであった。



年がら年中航空自衛隊の練習機が飛ぶため
窓を開けていたら授業が成り立たないから
でも夏に窓を締め切っていたら暑くて仕方がないから、
防衛庁の補助か何かで設置されていたようだ。

今思えば。



けれども、その冷房装置は
普段は決して使われなかった。


いつも、爆音の中で窓を全開しての授業であった。
もちろん、爆音中は、何も聞こえなくなる。
訓練飛行時間中の授業は、授業にならなかった。


年に1日、夏休み中に、
試運転されるだけの存在であった。
その日の部活だけは、涼しかった。


なぜ?


設置費は出たけれども、
維持費の出処がなかったから。


何のために設けたの? 冷房装置。

意味ないじゃん。



こういうのを、
縦割り行政の弊害による無駄遣いって言うんじゃないかな。



ここ数年、全国各地で大慌てで整備されている、エアコンたち。

キミたちが稼働するための費用は
ちゃんと確保されているんだろうか。


「電気代が高くついちゃったから、
 使っちゃダメよ」

そんなご無体が、まかり通っていやしまいか。

なんとなく、まかり通ってしまっているような気がするのだけれど。


その結果、少なくない費用を投じて設置されたエアコンが
あまり活用されることなく、
熱中症の児童生徒職員を量産しつつ、
ただ、置物と化している……。



そうならないことを、願いつつ。
(「学校にエアコン」おわり)
posted by けろ at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 空調設備 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする