山武ハネウエルと書かれている。
今のアズビルである。
昔むかしのでっかい目立つ温度調節器ではなく、
少々昔の小型化されたものである。
デザインもシンプルで
必要最小限の表示で……という主旨だったはず。
だけれども、テプラで思いっきり
「さわるな」という強烈な禁止の文言と
用途とが表示されるに至っている。
建築設備に関しては、
家電製品などと比べてずいぶんとゆっくりであるけれど
少しずつプロダクトデザインが意識されはじめ、
家庭にも据えられる衛生器具から始まって
いろいろな機器類に波及し始めているものと
認識している。
それに伴い、
小洒落た、スッキリした、洗練された
なかなかカッコイイものも出始めているように
思うのだ。
しかし、だ。
製品そのもののデザイン云々もさることながら
「実際にどう使われるのか」
という面も、重要ではなかろうか。
航空機は、多大なる事故と犠牲者との歴史を経て
現代の技術が確立されているという。
いや、「確立された」などという完了形ではなくて
普段の努力による確立が継続されている、という。
ちょっとしたデザインの違い、
システムの違いによって
操作する人、整備する人のミス、見間違い、
咄嗟の判断の誤りが起きにくくなるように
不都合や不具合事項が集積されて
よりわかりやすく、より安全に
見間違いやミスが生じにくい製品に、
生じにくいシステムに、
フェイルセーフの機構に、
作り変えられ続けているという。
しかるに、建築に関しては
なかなかそこまでいっていないように思う。
フィードバックも、あまりない。
建築設備においては「コミッショニング」という概念が
それなりに形成されているのだけれども
現実の建物で取り入れられている例は非常に少ない印象である。
試行錯誤を続けつつ、
「成功事例」を積み重ねつつ、
手探りに近い状態で発達を続けている、
そんな印象を持つ。
少なくとも、ワタクシ個人としては。
さて、写真の製品。
もし、このように表示しなくてはならないとすると、
デザインとして不足があったと言えるのではないだろうか。
「さわらないで」と表示するくらいなら
触ることの出来ない場所、方法で
取り付けなければならなかったのではないか。
目的・用途がわからなくて表示が必要なのであったら、
それを表示できるようなモノであったら
良かったのではないか。
そんな検証が行われているのかどうか。
それが、製品製作や、設計や、施工に
フィードバックされているのかどうか。
土木・建築には
「経験工学」という側面がある。
理論は理論として存在するけれども
経験の蓄積によって発達するという側面も大きいのだ。
だからこそ、経験を集積し、
集団知として共有し、
業界全体として、この工学分野一体となって
向上を期す必要があるんじゃなかろうか。
……言うは易し、の典型の一つであろう。
業界の片隅の、
さらに隅っこの底辺の底にこびりついている
一介の設備設計屋(設計「者」と言うのもおこがましい)
ワタクシなんぞが
ごく僅かな読者しかないブログでほざいているだけでは
どうにもならんことでもある。
シンプルでスッキリした洗練されたデザイン
と
誤操作と無縁で目的用途もわかりやすいデザイン
とは、決して相反するものではないはずである。
という仮定のもと、
自分としては「文字標識等」の範疇で
何ができるかなぁと
無い脳みそを引っ掻き回しながら
休むに似たりと言われても仕方がないまでも
下手の考えを続けてみるしかないのであろう。
少なくとも、
カッコイイデザインの製品の目立つ位置に
ベタベタとテプラで貼り付けてあるよりは
マシな「何かの方法」が
あるはずなんだ。
あって欲しいものなのだ。
(「シンプルがベストかどうか」おわり)