あれだ。あの、赤いボディのヤツだ。
たまに車にぶつかられて破損していたり、
あちこちが錆びていたり、
「すごく邪魔な位置にある」と邪険にされる、アレだ。
「移動式」と書いてあるけれども
移動できないように固定してある、アレだ。
法律的な名称だから、多少変に思ってもそう名乗るしかない。
赤く塗られているのだけれど
年月とともに色褪せていって
そのうち錆色と区別がつかなくなる、アイツだ。
誰も、何も気にしない、
もう何十年も、誰も触りもしていないかのように思えるかもしれない。
ただの放置プレイでウン十年を
過ごしてきているように思えるかもしれない。
でもね、そんなネグレクトでもないんだ。
まがりなりにも、消防設備なのだ。
だから、ちゃんと定期的に点検されて、
報告されて、構われているんだ。
それなのに、錆を取るわけでも、塗り直すわけでも、
凹みを(機能上支障がなければ)直されるわけでもなく
生温い目? 冷たい目? を、たまに一瞥もらうだけの
存在になっている。
「法的にオマエが必要なんだから、存在を許してるんだよ」
「ホントは邪魔で邪魔で仕方ないんだけどな」
「オマエが居なくなると、オレや上司が怒られんだよ。消防から」
「キレイでいたいなんて、ゼイタク言うんじゃねぇよ。
そんなカネあったら、他で使うよ」
そんな声が、どこかから聞こえてこないだろうか!?
足回りが、赭褐色の度合いを増してきている。
誰か、錆落としをしてくれる者は居ないか?
耐熱強化ガラスの素敵な靴でも
誂えてくれる奇特な方はおられぬか?
居るわきゃないんだわな。
(「放置されているかのような」おわり)