だいぶ朽ちかけた、木箱。
巣箱じゃない。
錠がかかっている。
こんなにご丁寧に、何を納めてあるのやら。
ここのはたぶん、
屋外温度計測用のセンサーを入れてあるはず。
日射は遮って、通風は確保する。
雨や雪も直接かからないように。
そのための百葉箱である。
気象観測所にある百葉箱も、
もともとアナログな温度計、湿度計などを納めておく場所だった。
それの建物版、っていう感じ。
今だったら、百均で窓に貼りつける温度計なんかが買えるから
外気温を知りたいだけならこんなモノはいらない。
でもこの中にあるセンサで外気温を測定し、
それに基づいて冷暖房の自動制御をかけたり
室内温度や冷温水温度などと一緒にデータを蓄積したり、
そんな事のために取り付けられているのである。
もっとも、こんなモノを使っていたのは
だいぶ前の時代だ。
現代の新築建物には、
まず見られまい。
見ての通り、だいぶ朽ちかけている。
やがて、朽ちきってしまうだろう。
そうしたら、センサーもろとも撤去・更新されるのだろう。
最新タイプのものに。
躯体に比べると、設備類の寿命は短い。
もののあはれを感じ取るなら、建築よりも設備だ。
建築仕上げも躯体も、いずれ衰えて、劣化して、傷んでいくのには
違いないのだけれど。
なるべく手をかけて、それを遅らせてやるのは良いことだと思う。
普段あんまり気にしてもらえないけれど、
建物や設備の様子は時々見てあげて、
なるべく補修、塗装、などをして欲しいものである。
カネとテマとがかかるから、
放っておかれがちなのだけれど。
(「せつびの百葉箱」おわり)