必要であるのだけれども
たいていどこか隅の方だったり掃除用具置場内だったり
狭いところに押し込められていて、
どっちかと言うと陰キャなのである。
きれいな水は流してもらえず、
鼠色に汚れた雑巾水を流されたり
すえた臭いのするゲロ掃除後のモップを洗われたりして
あんまりキレイなイメージは持たれようがない。
周囲には所狭しとバケツ、洗剤、モップ、ちりとり、ゴム手、
その他何でも置かれまくって文字通り足の置き場もない。
洗面器のように誰かがその前で化粧直しをすることもないし、
洋便器のように上に座って考え事をしたり、スマホを眺めたり、
つらさをじっと堪える人も、来ない。
たまに、忙しそうな掃除係の人が
テキパキと、あるいは気だるそうに、
自らの仕事をただ黙々と果たしに来るだけだ。
でも、文句も言わず(ただの陶器だ。言えるわけもない)、
ただ、そこに在る。
便所改修に伴って撤去される、
あるいは建物自体が解体される、その時まで。
こういうのを、「健気」って呼んでもいいのかどうか。
でも敢えて言おうじゃないか。
「健気だね」と。
次々とデザインも機能も洗練されていく他の衛生器具と違って、
変わらない、SK22A。
(「掃除用流しって、健気じゃぁないか」おわり)