岬の絶景を、強風吹き荒ぶ環境下にあってさえ穏やかに眺められる施設が建っている。
その名も、風の館。
他にあるのは岬そのものと、襟裳岬灯台と、漁家と、旅館が何軒か。
だから決して見落としたり、見誤ったり、見失ったりするような施設ではないのだけれど
とても、とても念入りに、その館の存在を表示してあるのだ。
上の画像の中だけで、
一体何箇所の「風の館」表示があるだろうか?
館のアーチゲートの先にも、延々と表示が続く。
いや確かに、アプローチは長いんだ。
長いから、「本当にここでいいのかな?」「入り口、こっちでいいんだよね?」
不安になることが無いように、
念には念を入れているに違いない。
そうだ。そうに違いない。
とにかく、すごい。
これを見るだけでも、
訪れた価値があるというものだ(言い過ぎ)。
さて、シツコイくらいの表示を過ぎても、
施設本体入り口へのアプローチは続く。
でもあれだけ館名が連呼されていたのだ、
絶対にこの通路の先で間違いない、という確信は揺るがない。
揺るぎようがない。
で、安心して上部を見ることができる。
設備屋としての矜持である。
消火の配管と、各ダクトとが
アールを描く躯体に何とか追従しようとして
絶妙な線形を醸し出している。
既製の45度エルボで処理しきれない局部は
加工管で接続してあった。
全部これで良かったんじゃ? すっきりするのに。
って茶々を入れるのは、野暮ってもんだ。
設備施工者と監理者とのバトルがあったのかどうか
検査職員の眉間に皺が寄ったのかどうか、
いきさつは伺い知る由もない。
ようやく館内に入ると、
立派なノズルが出迎えてくれる。
などと感じるのは、設備屋だけである。
誰も、気にしちゃいない。
存在にすら、気付きゃしないのだ。
でもワタクシひとりぐらい、愛でたっていいじゃない。
さて、件の展望スペース。
ガラス越しに、没入山脈がよく見える。
小銭を投入せずとも観られる双眼鏡がいくつも据えてある。
あの岩塊のそこここに、ゼニガタアザラシが居るという。
写真とともに、「このへんに○頭います!」と表示されていて
どうやら毎時、館職員が状況確認をしているようだ。
そのあたりを探すと、
なるほど確かに居るじゃあないか。
肉眼で見てもさっぱりわからないけれど
双眼鏡越しだと、しっかりと確認できる。
やつらは、遠目だと大きさがわからないのだけれど
じつは結構でかいらしい。
大谷翔平よりは小さいのかな。
ふふ、人類ナメるな。
って、ワタクシは負けてる。
だいたいもって、
こんな風の中、冷たい海には入ること能わず、だ。
岬の遊歩道から見上げると
断崖の上に建っている様子がよく分かる。
良く建てたね。
基礎……は、まあ岩盤だから丈夫だよね、たぶん。
あの大きなガラスを据える際に
風に煽られて大変だったんじゃないだろうか。
景色以外のここのウリは、「えりも風体験」。
でっかい軸流ファン(だよね?)による送風の
直撃を体感できるのだ。
最前列だと、25m/s なのだそうで。
感想は……「とにかく凄い」。
こういうのも「建築設備」という括りに入るんだろうかね。
もちろん、フツーの「せつび」も
そこかしこに存在しているから
しっかり眺めることができる。
まだこれが建った当時は
消火栓のランプにLEDは使われなかったであろう。
天井裏部分を隠すために、
ブラインドが使用されていたのが面白かった。
こういう使い方は、初めて見たから。
ボードを貼ったり、ルーバーにしたり、というのはよくあるけれど
この発想に至った人、なかなか柔軟な思考の持ち主ではあるまいか。
何もない?
いやいや、館があるじゃん。
そんな、襟裳岬。
(「風の館が建っている」おわり)