北海道の南端、ではないんだけれど、でも南端っぽいところ。
襟裳(えりも)岬である。
岬へつづく散策路の手前には、広い駐車場があるのだが
車はほとんど停まっていない。
殺風景な、その地。
駐車場から南へ歩いていくと、
襟裳岬灯台がぽつんと存している。
「何もない」なんてことはない。
現役で夜の海を照らす、灯台があるじゃない。
「真っ白な」と形容するにはいささか色気づいている(?)けれど。
北極でも南極でもなくて、「風極」を名乗る、
とてもとても風の強い地。
実際この日も、たぶん普段よりは穏やかなんだろうけれど
やはり強いとしか表現しようのない風が当たり前のように吹いていた。
岬に沿って、遊歩道が整備されている。
大雪山系から日高山脈へと連なる連山が
眼前より更に南方の太平洋へと潜っていく場所である。
この方向で見るならば、「逆さ北海道」になる。
見ての通り、北海道の南端、ではない。
敢えて呼ぶならば、東南端、ということになろうか。
散策路は、海岸線のほうにも伸びている。
のだが、注意事項がある。
コンブの漁場でもあるため
コンブ干場が至るところに設けられている。
そこには立ち入るな、ということだ。
ちゃんとわかるように表示・線引きがしてあるから
気をつけさえすれば大丈夫だ。
重要な生産現場なのだから
ただ眺めに行く者は路から外れること無く謹んで通るべし。
そういうことだ。
風雪に、波浪に晒されて、
徐々に地形が変わっていくのだろう。
かつて何がしかのモノが建っていたと思しき
コンクリートの残骸とともに
階段跡も姿を残している。
日高山脈の海没現場を
同じ目線で見られる場所。
目を凝らしてもわからないけれど
あの岩塊のところどころに
アザラシが群れ横たわって、しばしの休息をとっている、らしい。
何もない春です……というよりも、誰も居ない春です、という感じだけれど、
いやいやどうして、「何でも有る」のじゃないだろうか。
人間の便利や享楽や欲望に関わる一切は、確かにあんまり見当たらないかもしれない。
でも豊かな、そして厳しい自然と、
そこに手を伸ばし踏み入る者だけが得られる産物と、
文明社会に生きる人類があちこちに置き忘れてしまったすべてが
そこにある気がするのである。
(「何もない春です?」おわり)