氷点下にもなる。
「氷点」とは、水が凍結する温度ということで
自然の摂理として、氷点下では水が凍結するのである。
1気圧の大気の下では。
とてもとても寒い日が続いたある日、
その事件が起こったという。
建物内が、水浸しになったのだという。
凍結現象が原因であったという。
寒かったのに、水浸し?
凍結なのに、水浸し?
ひとまず事態が収拾されたあとの床を見て欲しい。
このような茶色のドットがフロア全体にわたって
ほぼ等間隔で並んでいた。
場所によっては、
ドットの中心部に、つららを逆さにしたような、
鍾乳洞における石筍のようなものが
形成されていた。
これらのドットの上方には、
漏れなく正確に、スプリンクラーヘッドが存在していたのである。
「漏れなく」なんだけど、「漏れた結果」というのが
とても悲しいことで。
天井と壁の境目とか、天井点検口とか
そんなところも茶色い液体に侵食されていた。
天井内がどんなであったのか、
想像ができるだろう。
錆に塗れた水が
そこかしこに吹き出して
阿鼻叫喚の事態となっていたことだろう。
・・・・・・・・
寒い日の続いたある日、ある瞬間、
細いスプリンクラー配管内の水の一部が凍結し、
部分的に配管が破損した。
破損部から、まだ凍結していない水が流れ出した。
配管内で水が流動したことにより
流水検知装置が作動して自動警報弁が開放されて
スプリンクラーポンプが起動、
消火水槽内の水を圧送し続けて
水槽が空になるまで館内に放水し続けた。
ポンプ停止後、管内に残った水が
各ヘッドからポタポタと滴り落ちる際に、
上には氷柱が、下には水筍(っていうのかな、石筍の水版)が
形成された。
古い鋼管内に入れられっぱなし、
消火水槽に溜められっぱなしだった水だから、
錆に塗れ、汚れが混在しまくった、茶色い水。
それらが室内も天井内も茶色に染め上げてしまった。
……おそらく、こんなストーリーだったと思われる。
アラーム弁廻りも
こんな状態。
噴出した水も、やがて凍結してしまって
そこいら中に、氷。
各階のシャフトが、こんな状態に。
もはや、どこが破損しているかなんて
わかりゃしない。
この施設を今後使いたいなら、
スプリンクラー設備一式を全面更新する必要があろう。
破損した部分だけを補修できれば良いけれど、
たぶんあちこち破損しまくりで、信頼性も乏しく、
全面更新と同等くらいの費用になってしまうだろうから。
天井、壁、床の内装も全面やりかえないと
「清掃」なんかでごまかせるレベルではない。
天井内の電気系(照明、放送、警報、センサーその他)も
相当ダメージを受けているだろう。
どのくらい使えるものか、
まずは点検、可能なら修理、無理なら更新。
とにかく、
数千万円レベルの、甚大な被害である。
悲惨、としか言いようのない状況と相成った。
多少の救いを見出すならば、
この施設内が空いている状況下であったことくらいか。
使用中の施設であれば、
PCやサーバー、事務所類、製品、商品など
更に被害が大きかったことだろう。
そういうのが無かっただけ、
マシだったと言えるのかも知れない。
逆に、使用中の施設であれば、
必ず暖房されるから
このような凍結事故に至ることが無かったはず、
とも言えよう。
実際、使用中であった前年冬までは、
凍結したことなど一度たりともなかったのだから。
だからこその油断があったのかもしれない。
オーナー企業が、寒冷地の所在ではなくて
首都に所在していたために
「凍結」という概念が無かったのかもしれない。
寒ければ、水は凍るのだ。
凍結事故を防ぐには、
・凍結しない温度に保つ
または
・凍結する「水」を除去する
(つまり、水抜き)
の2択である。
「水」(一部では『ジヒドロモノオキシド』という、多数の人類を死に追いやった危険物として認識されているが)は一般的な物質とは少々異なり、
液体から固体への相変化に際して体積が膨張するという物性を有する。
よって、凍結すると容器(や配管)を破壊してしまう力を内包しているのだ。
加温 or 水抜き
ゆめゆめ、怠ることなかれ、だ。
寒冷地の設備設計に際して、
設備技術者は特に気をつけなければならないのだ。
と同時に、
所有者や利用者も、
「知らなかったから」なんていう言い訳が
莫大な金銭的損失となって一蹴されてしまうのだから
他人事ではないのだ。
(「凍らせちゃうと悲惨」おわり)