麦酒造りは公的な事業であった。
札幌開拓使麦酒醸造所
冷涼な気候がヨーロッパ諸国に似ていて
ビール造りに適している、と判断されたようである。
その当時の施設が
現代に遺されている。
レンガ造りの工場跡が
売店や見学コースとして再利用されている。
この醸造所を引き継ぎ、幾度もの再編を経て現在あるのが
「サッポロビール」である。
見学コースには、
醸造装置のいろいろが展示されているが
もちろんこれらは当時使用されていたものではない。
ピッカピカのステンレス製品。
明治9年、ドイツでビール造りを学んだ中川清兵衛が
この地でのビール造りを始めた のだという。
蒸留釜。
熱の伝わりやすい銅で造られている、ということのようだ。
レンガ造の建物であるが、
現代の使用に耐えるよう
設備的には完全に新しいものになっている。
換気用のファンやダクトは黒く塗られ
補強鋼材とともに背景として紛れている。
複合施設「札幌ファクトリー」の一部として
必要な設備が所狭しと付加されている。
ナナメの角度に合わせた配管の通し方には
施工者の感性が大いに影響しているものだと
思うのである。
古いレンガ造建物と、別の棟とを結ぶ廊下は
新しく造られ、接続されたものである。
エアコン室外機が、
これまた狭いところに押し込まれているのが見える。
20年30年を経た建物はただ古臭く見えるだけなのだが
100年150年を経過すると、歴史的建造物としての味が出てくる。
それらを活用するとなると、意匠的修復、構造的補強のみならず
空調換気、給排水、動力、照明、防災、通信といった
さまざまな「せつび」を付加していかなければならない。
この「歴史的建造物」には、どのような「せつび」が加えられているのか?
そんな視点で見てみると、
きっといろいろな発見があるに違いない。
(「札幌開拓使麦酒醸造所」おわり)