古っるい建物の天井内。
これまた年季の入っていそうなスパイラルダクトが
梁を貫通しているのが見えた。
鉄筋コンクリート造建物の場合、
適切な貫通部補強を行うならば
梁の高さの3分の1までの径であれば
貫通孔を設けることができる。
ここの場合、結構ギリギリまで攻めた感じ?
スラブ厚の分もあるから、
きっかり3分の1よりは若干小さそうだ。
構造計画に大きく依存するけれど、
径100mmまでであれば補強も不要、とされることもある。
いずれにしても、新築時、コンクリート打設時に
適切な補強を行った上でのことである。
既存の建物の梁に、あとから貫通孔をあけるのは
よろしくない。
いや、これまた「適切な処理」ってものもあるのだろうが
「適切さ」を担保するのが難しい。
だから、むやみに孔を開けたりしないことだ。
古い建物の場合、施工精度の問題もある。
鉄筋のピッチが甘かったり、
「かぶり」が足りなかったり、
施工管理上の不備があったりするものだ。
バブル期に、猫の手も借りたい状況で
経験不足の若手に任せっきりで
ちゃんとした管理が行われなかった現場とか。
(これは、人手不足が叫ばれる昨今も同様かも)
比較的新しい建物の場合、
また別の問題もあり得る。
品質の向上、工期の短縮、ロングスパンの実現などを図るため
プレキャストや、プレストレストの部材を使っていたりする。
そんな部分に後から孔など開けようものなら、
建物自体が崩壊しかねない。大げさではなく。
バブル期、工程が詰まっていてスリーブ入れが間に合わなくて
夜中にこっそりダイヤモンドカッターで孔をあけたんだ。
……そう、半分自慢気に「武勇伝」を語っていた人に会ったことがある。
それ、ヤバイやつじゃん。
鉄骨梁に、孔をあけちゃったという設備屋さんの話を
耳にしたこともある。
ええっっっ?
世の中には、そんな建物が
実はたくさんあるのかも知れない。
構造強度には、それなりの余裕があるから
何とか辛うじて保っているだけなのかもしれない。
大地震が来たりすると、そういう部分から崩壊していくのかもしれない。
どこかの国で、地震で建物が崩れたなどという報道があると
「日本は大丈夫っ!!!」
そう啖呵を切る方もいる。
それは、ちゃんと基準通りに設計・施工されていればの話。
どこかに、上記のような欠陥が無ければの話。
そして昨今、コストダウンのために
昔むかしよりも「安全率」の小さな建物も
多いんじゃないだろうか。
「余裕」を見ればみるほど、コストは上がるわけだから
構造計算を精密に行うことにより「ギリギリ」を狙うことができるわけで。
昔は、昔。
今、下手なところに後から孔など開けようものなら
その賠償として建物ごと建て直しを求められる可能性がある。
だから、梁に無闇に孔など開けてはいけない。
……やはり昔、大阪かどこかで
設備改修工事で柱に孔を開けまくって
(役所がそういう設計で発注した!)
後で問題になって、
結局取り壊しになった公営住宅があった。
恐っそろしいこった。
ハインリッヒの法則によれば、
顕在化していない同様の事象が
きっとたくさん隠されているはずなのである。
あ、冒頭の梁貫通は
ヤバそうじゃなかったですよ。
念のため。
(「スパイラルダクトの梁貫通」おわり)